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3回目の出荷の話

残暑厳しい一日だった。久しぶりに扇風機をつけた。今年最後の夏日だ。

前回の出荷はスムーズに誘導できた。今回も問題なく誘導する為に気を引き締めて挑む。

↑前回の様子はこちらから。

前回の反省として、早くから仔羊と大人を同じ空間にいれると、仔羊がイジメられる状況が発生した。羊からしてみると、ある日突然、違う部屋に連れてこられる事がまずストレスな上、そこに見知らぬチビ羊がいたら仲良くなんてできない。無理もない話だろう。

今回の出荷のトラックに誘導する寸前まで、大人と仔羊は分けておく作戦は見事に大成功。今後もこのやり方でやっていくだろう。ちなみに仔羊は44kgまで育った。なかなかのサイズだ。人懐っこい可愛いやつだった。

柵の前にはトラックが横付けされていた。隙間を潜り、柵の中に仔羊をいれる。そこで初めて大人と仔羊が対面した。羊たちの間で戸惑いの様な、不思議な雰囲気が流れた。

初めましての対面も束の間、ゲートが完全に開放された。戸惑いながら羊たちは柵の外に出る。周りには見慣れた人間が勢揃いしている。その先にはバケツの中に入ったエサがある。なんだか妙な感じだ。

羊はそんな顔をしていた気がする。

なかなか動こうとしない。明らかに怪しんでいる。これはまずい、羊たちが暴れ始めたら静めるのは大変だ。餌で羊たちをトラックまで誘き寄せよう。バケツを振り、マラカスのように音を鳴らすと羊達の反応が変わった。美味そうな音がする。そんな顔をしていた気がする。トコトコとトラックの荷台まで恐る恐る歩き、積み込みに成功した。

何事もなくてよかった。ホッと胸を撫で下ろす。羊達も喧嘩はせず、大人しい。性格の相性がいいのかもしれない。

次の出荷はまた2週間後。次回への課題は確実にスムーズに誘導する方法を見つける事だ。出荷はいつもぶっつけ本番だ。回数を重ね、最善の方法を探し続けるしかない。

最後に少しだけ羊達に声をかける。最後まで人懐っこい羊達だった。出荷のたびに、羊達は商品である事実を認識する。美味しいお肉を育てるのが我々の使命なのだ。それを忘れてはいけない。そんな気持ちを思い出しながら、トラックを見送った。

出荷の回数を重ねるたびに、葛藤は薄れている感覚がある。だが、無くなることはないだろう。そんなことを考えていた。いつか、精神的にドンとくる時が来るんだろうな。そんな予感もふと頭によぎった。そんな時間も束の間、出荷が終わるとすぐに他の業務に向かった。

このノートは、一人前を目指す見習い羊飼いの日記。

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それでは今日も良い1日を。めぇ。

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