見出し画像

組織文化をプレイフルにリ・デザインしよう!(Vol-2)

-株式会社 オーイーシー様の事例-

組織文化をデザインし直す動きが活発化しています。日本経済新聞では、社名変更がこの10年で2倍超に上り、そこにはグローバル化やDX化といった激しい経営環境の変化やパーパス経営の浸透によって大胆に再成長を進める企業の覚悟が見えてくることが紹介されています(3月26日)。

「みんなのデザイン進化論」のメンバー レベルフォーデザイン(L4D)とクリエイティブ・ジャーニー(CJ)はジャパンラーニング株式会社様(以下JL)からのお声がけで、さる4月にリリースされた株式会社オーイーシー様のCI(Corporate Identity)プロジェクトに参画させていただきました。

「変革を進める企業にデザインの力はどのように寄与するのか」その現場をレポートする本連載。第1回では、取り組みのはじまりからMI(Mind Identity)開発までの経緯をご紹介しましたが、第2回ではMIに続くVI(Visual Identity)を担当したレベルフォーデザインの安土潤一郎が開発に込めた想いや苦心のプロセスを語ります。(聞き手:酒井章)




はじめに(プロジェクトに参画して)

本プロジェクトでは、VIの開発に至る一連のプロセスのすべてに参加されましたね。

安土:VI開発に特化した形ではなく、『組織開発・組織風土改革』も含めて参画させていただいたのは、私自身初めての経験でした。

それによって、CIや企業ブランディングに対する理解の変化はありましたか?

安土:VIに特化した形での参画ですとプロジェクトが進み、既に多くの要件が決定された段階でご提案をすることが多くなりがちです。
 
そうすると、ご担当者が潜在的に抱いているような想いに想像が及ばず、アウトプットに時間がかかったり、「イメージとは異なる」というフィードバックを頂戴して何回も修正が発生したりします。しかし今回は、デザインの本質的な価値をご理解いただき、プロジェクトの初動から参画させてくださったオーイーシーの皆さんに感謝しなければいけない、と心から感じています。

プロジェクトは1年近くに及んだわけですが、2回のワークショップやその後のタスクチームの皆さんとの毎週の定例で生の意見を交わしたことによって、アイディア出しやデザインする上で気持ちがより強く込められたことは間違いないと思っています。

大きな信頼関係が生まれたということですね?

安土:その通りです。VIのモチーフを探す際にも、しっかり地道に積み重ねてつくっている感覚、チームの皆さんと一緒につくっている感覚があり、すごく楽しさを感じていました。
 
何よりも、タスクチームの皆さんが、性急な進め方ではなく、非常に建設的な姿勢で関わってくださったことがありがたかったですし、それによってより納得のいく形でデザイン作業を進めることが出来たと思っています。
また、私自身もデザインに対する意識が拡張した感覚を得ることに繋がりました。

本格的なCI策定のプロセスに入る前の、タスクチーム向け・組織横断メンバー向けの2回のワークショップに参加された感想を聞かせてください。

安土:ワークショップでは、私自身はオーイーシー様の社員というより、少し「斜め」の立場で参加させていただきましたが、社員の皆さんが最初は「自分起点」で話されていたのが、だんだんと「会社のためにはどうしたらいいか」と視点が高まり、熱量がどんどん高まっていくのを感じました。
その様子を拝見して、私も「本気にならないとイカンな」と感じて(笑)わからないまま、より突っ込んだ形で皆さんの対話に参加するようになりました。

VIのプロセスの中で「画にする、可視化する」デザイナーの価値を感じた場面はありましたか?

安土:つくったものに対する説明責任というか、曖昧ではなくロジカルな伝え方をしなくてはいけないと基本的には思っています。

とはいえ、そこにはロジックを超えたものがあって、提案したデザインを見ていただいた時の笑顔を拝見した時の嬉しさは忘れられません。
「うまく説明できないけれど好き」「プレイフルってこういう感じなんだ」という感性を刺激できたんだと思います。

ワークショップを経て、パーパス「テクノロジーと人間力でウェルビーイングな社会を実現する」ビジョン「すべての「地域」に寄り添う共創デザインカンパニーへ」というMI(Mind Identity)が生まれたわけですが、デザイナーとしてどのようなインスピレーションを受けましたか?

安土:MIを拝見して『つながり・人間性・共創・大分・“オーイーシー”という響き』といった大事な要素を活かし、それを形に込めていきたいと思いました。また、オーイーシーの皆さんにとって親和性のあるものにする必要がある、という責任を感じました。

やはり「オーイーシーらしさ」からかけ離れたものになってしまうと、社員の皆さんも気持ちを乗せにくいと思いますし、今後出来上がったVIとともに、皆で語り合ったり、発信したり、ビジョンの実現に向かっていくわけですから。表に出ていない想いの部分をしっかり汲み取れるようにしたいと思って取り組みました。

VIの各アイテムについて

では次に、VIの各アイテムについてお話を聞いていきます。
まずCIマークのデザインにあたって考えたことや工夫したことは何でしたか?


CIマーク


安土:まず、このマークですが、CI活動のシンボルマークとしてイメージ化したロゴマークで、今回のプロジェクトにおいてCIマークと呼んでいます。一見シンプルでありふれた形なので、傍目から見ると簡単にできているようにも思われそうですが、アウトプットまでには割と時間をかけました。

先ほども触れた『つながり・人間性・共創・大分・“オーイーシー”という響き』という要素に加えて、丸い形によって「循環」つまりウェルビーイングやサステナブルな想いも表現できると思いました。何といっても複雑なものよりもシンプルでわかりやすいものが良いと思ったのがデザインの意図です。

CIイラストでは、いかがでしたか?

安土:イラストは弊社のイラストレーターの續田(つづきだ)功太に描いてもらいましたが、ありがちな「未来ビジョン」的なものにならないように気を配りましたし、オーイーシーの皆さんが「こんな社会になって欲しい」と思い描くものが具体的に描かれていることが重要だと思いました。
その結果、ディテールにこだわって描き込まれたオリジナリティがあるイラストに仕上がったと思います。
 
工夫したのは人物の描き方ですね。さまざまな人がいる社会のなかで、表情を細かく描かなくても冷たくならないよう、でも可愛い感じになりすぎないように検証した結果、シンプルに目だけを書き込んだ形にしました。
あと色の彩度の点でも、カラフルな印象が嫌味にならないようなバランスの工夫もしました。

ビジョンを描いたCIイラスト


名刺のデザインにあたって考えたこと、工夫したことは何でしたか?

安土:名刺はキービジュアルのモチーフが入るという前提だったので、デザイン自体の方向性はすぐに導き出すことができました。
ただ印刷面ではランニングコストに配慮した提案をもっと幅広く出すことができたかもしれないと感じています。
社員の皆さん一人ひとりが異なる名刺の活用状況に配慮し、よりコストを意識したデザインというものをもっと考えていかなくてはならないと思っています。

氏名などの印字は内製化できるようにし、ランニングコストを抑えた仕様にした。


ビジョンブックの制作についてはいかがでしたか?

安土:まず、オーイーシー様のビジョンブックがどんなものかといいますと、『読み手に問いかけながら、CIについてより深く理解して貰うこと』を意図してつくられました。このビジョンブックのコンセプトは、「ミュージアム」なのですが、オーイーシー様の本社新社屋(未来の杜Play Field)にも盛り込まれたアートの要素を反映したものになったことが、まず良かったと思っています。

また、ビジョンブックの見せ方のひとつとしてよくあるのが、パーパスとストーリーのみの構成要素で、ストーリーを絵解きにして絵本のように見せていく手法です。
もちろんその見せ方が効果的な場合もあると思うのですが、プロジェクト全体で考えた時にどうやったらBI(Behavior Identity=態度や行動のアイデンティティ)につなげやすく、また行動も促せるか、その使い方までも含めたご提案でなければいけないと思い、「読んで終わり」にならない構成を考える必要がありました。

ストーリーのなかに、『「良い社会とは何か」を問い続ける』という部分があります。この「問い続ける」「問いを立てる」ということが重要なポイントになっていると理解したので、ビジョンブックも美術館にすでにある作品を鑑賞するのではなく自分たちが問いを立てて考えたものがそれぞれの作品になっていく、BIへの接続をより意識した構成にしました。
 
ページをめくると問いが書かれていて、それに対して自分が回答を書く欄が設けられているのですが、その問いの脇にはビジョンを表すCIイメージイラストの未完成パーツが描かれており、ページをめくるたびに、だんだんイラストが完成していくというパラパラ漫画的な遊び心のある構成になっています。

問いに答えることによって一人ひとりのビジョンが「作品」になっていくストーリーに、タスクチームの皆さんが共感くださったのだと感じていますし、何よりもCIのコンセプト「プレイフル」が表現されたことに達成感を感じています。

表紙デザイン
導入ページ
一見開きごとに「問い」と自分自身の解答欄が設けられている。
右下のイラストはページをめくるたび、パラパラ漫画風に絵が出来上がっていく。

また、ビジョンブックを作っていく過程で「もっとこうしたいんだ」という意見がタスクチームの皆さんからどんどん出てきました。冒頭の話に戻りますが、プロジェクトの初動から参画させていただいたからこそ率直に意見が言い合える信頼関係が生まれ「みんなでつくるビジョンブック」になったと感じています。

VIマニュアルを作るにあたって、考えたことや工夫したことは何でしたか?

安土:マニュアルについては、現状は「バージョン1.0」ですね。今後、想定していなかったようなツールなども必ず出てくると思いますので、制作される各社様に依頼をする際に、オーイーシー様が迷ったりブレたりすることがないよう、しっかり伴走していきたいと思っています。

最後に(デザインの新たな可能性とは?)

プロジェクトを通じて、オーイーシー様という会社の可能性をどのようにして感じていますか?

安土:タスクチームを始めとする社員の皆さんと接して、最先端のテクノロジーやデータを取り扱う一方、「人間性」というものにすごく満ちている会社だと感じました。

その技術は宇宙開発事業や地域に根ざした養蜂活動など幅広いですが、プロフェショナルの皆さんが、未来にその技術力や人間力をどう活かしていかれるのかが非常に楽しみです。

いよいよスタートしたCIプロジェクトの可能性を、デザインの力でどのように広げていけると思いますか?

安土:オーイーシー様はテクノロジーのプロフェショナル集団であり、デジタル社会のインフラをつくり、地域とつながりを築いていく決意をCIによって表明されました。

そのビジョンの実現のためにも、社会や地域の方々に理解していただきやすいコミュニケーションが大事になっていくと思います。その点で、デザインの力でオーイーシー様の技術を活用する人々の目線に立ってメッセージを適切に見える化し伝わりやすくすることができると思います。

改めてこのプロジェクトに参画して、デザイナーとして何か気づいたこと、学んだことをお聞かせください。

安土:デザインの可能性という点では、日々の仕事のなかではデザインと社会のつながりがぼんやりしている面もあったのですが、このプロジェクトに取り組ませていただく中で、少しずつクリアになってきている気がしています。

印象的だったのは、デザインによってタスクチームの皆さんの想いを可視化したことで、「社会を変えていこう」という本気のスイッチが入ったように見えた瞬間です。その時、私もクリエイティブの価値を感じて「人々の意識を変えていくための技術なんだ」という認識が強まりました。

なるほど!ではこのプロジェクトを通じて、ご自分のデザイナーとしての仕事のやり方は変わりましたか?

安土:全てにおいて、かなり変わり始めていると思います。
例えば前提を疑い「そもそも」の目的に何度も立ち返ることの重要性を改めて感じています。自分の見方に捉われずに距離をとることを常に実践できるように行動していきたい、と思うようになりました。
そして、この気づきを社内の若いデザイナーにも伝えていきたいですね。
クリエイターは考えなければならないことが、まだまだあるんだということを伝えられたらと思います。

レベルフォーデザインは「ブランディングデザイン宣言」をしていますが、この経験を経て、改めてブランディングデザインって何だと思いますか?

レベルフォーデザインは、これまでも「想いを見える化する」部分においては一定の評価をいただいてきたと自負しています。
ただ、課題の再定義や、物事の本質をついた提案をすることがより一層求められるいま、ブランディングデザインを標榜するならデザインのクオリティはもっともっと探究しつつデザインの価値や役割をもっと拡張してアップデートしていかないといけないと感じています。

ありがとうございます。
次回は、株式会社オーイーシー様の本社新社屋「未来の杜Play Field」(South Field)見学レポートとタスクチームの皆さんとの対談をレポートします。お楽しみに!


▼第1回目の記事はこちら


⚫︎この記事の話し手
安土潤一郎 (あづち じゅんいちろう)  /  L4D / アートディレクター
秋田県出身。アートディレクター。みんデザプロジェクトリーダー。カレーが好きです。
X(旧:Twitter):https://twitter.com/Jun_L4d




▼株式会社オーイーシー様のサイトはこちら


▼株式会社レベルフォーデザインのサイトはこちら

▼みんなのデザイン進化論のサイトはこちら