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第5回 藤田健さんの”こうしよう術”

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは、実際に就学活動を終えられた先輩方に、リアルな経験談をお聞きし、それぞれの方の知見を”こうしよう術"としてご紹介していきます。

子育ても、学校選びも、妻とふたりで。

東京都中野区在住の藤田 健です。小学校6年生の娘は、3歳の頃から続けているバレエと水泳が好きな、元気な子です。ダウン症と知的障害があり、区内の支援級がある小学校に通っています。

今はちょうど中学進学に向けての就学活動をしているところでもありますが、6年前の小学校選びと比べると、娘の意思表示も明確になり、学校も選びやすくなったと感じています。小学校を決めるときは5つの学校見学に行った他、通常級に入れることを希望していたこともあり、話を聞きに行っただけの学校は他にもありました。
それに比べると中学は「今の支援級のお友達と一緒に進学したい」と娘がはっきり希望しているので、近所の中学校だけ見にいく予定です。小学校を選ぶときに色々な可能性を考えて活動していたことも無駄にならなかったように感じています。

僕は元々、娘の子育て全般に関して、妻と足並みを揃えてきたところがあり、就学活動でもほとんど二人で一緒に取り組んでいました。

学校見学、夫婦で行くと良い理由

小学校のことを考え始めたのは入学する一年以上前、娘がまだ年中の冬頃でした。保育園でも習い事でも、障害のあるなしにかかわらずたくさんのお友達と一緒に過ごしていたこともあり、最初は通常級に入れられたらいいな、と思っていたんです。自宅の近所の小学校を見たり、就学相談が始まってからは支援級も視野に入れて、見学までしたのは全部で5箇所。全て夫婦ふたりで行きました。

ふたりで見学すると、ひとりでは気づかなったことに気づけたり、自分が感じたことを家で話し合う時にも話が早かったり、夫婦としての考えを深めやすかったりして、ひとりで行くよりもずっと良いと思います。

たとえば、最初に見学した学校で支援級の授業を見学したんですが、知的能力別に分けてかなり違う授業内容だったことが気になりました。ある程度わかる子たちにはお金のやり取りを教えていたのに対して、そうではない子たちは動画を見てるだけ、何も説明などがされてなかったんです。僕はそれがとても気になってしまったんですが、妻も同じでした。もしも娘がああやって放って置かれたら嫌だと感じていたようです。それに加えて、通常級と支援級の教室が離れていることもあって、休み時間なのに「支援級の子たちは誰も外に遊びに行かないのが気になった」と言っていました。僕は気づかなかったんですが、通常級の子たちはたくさん外に出ていたんです。

学校見学は夫婦で一緒に行くこと。
ひとりでは気づきにくいことまで気づくことができる。


同じ悩みをもつ父親同士のつながりも

これまでの就学活動や、娘に関する何かの集まりなどに参加すると、パパの参加者は僕ひとりだけ、ということもとても多かったです。仕事の融通がきくことも参加できる理由ではありますが、僕以外は全員ママたち、ということもよくありました。

でも実は、そういうところの参加も、けっこう楽しいんですよ。ネットワークが広がったり、知り合いがいっぱい増えたり、関係してるコミュニティが増えていきます。療育や保育園などのパパ会などでは、共通の悩みや話題のある者同士、すぐにいろんな話ができたりして、すごく楽しいですよ。普段の仕事では出会うことがないような、それぞれいろんなバックグラウンドのパパたちと知り合えて、気が合えば普段から関係性ができたり、仕事につながったりすることもあります。小学校でもPTAバレーボールに参加して、通常級のパパたちと毎週汗を流していて、子どもたち同士の交流も生まれています。

仕事が忙しくて子どもの活動に躊躇ぎみのパパやママは、
異業種交流のような場と捉えて参加する。

今の学校に決めたとき

今の学校に決めた理由は、圧倒的に素晴らしい先生に出会えたことと、あと妻の母校でもあったからでした。通常級に入学するのは難しい気もし始めていた時で、今の学校の支援級を見学した際、授業中の子どもたちの雰囲気がすごく良かったことが印象的でした。

決める直前には学校体験にも行きました。授業に参加させてもらって、娘はプリントに挑戦したり、僕も支援級の主任の先生と話しができました。今の娘にはどんなことができる、あるいはできないといった話や、僕たち夫婦がどんなことを望んでるか、といった話ができたのがすごく良かったですね。

結局、通常級か支援級かは、入学前に校長先生と話し合いました。最初は校長に「通常級に入ってもらえる体制がない。授業が分からずボーっとしてしまうだけになったら、娘さんがかわいそう」といった話をされたので、「でもそういう体制を作っていくのが、学校であり区の役割ですよね」と僕なりの意見もさせてもらったりして。しかし話は平行線でしたし、現実的に学校にはダウン症の子を通常級に迎える体制が整えられない、ということも理解したので、「それならせめて、通常級と支援級の交流が日常的にできるよう最大限に努めてほしい」と頼みました。そしたら、「音楽と図工は通常級と一緒にできるように、また、運動会も一緒にしよう」と言ってくれたんです。

学校を決めた後も、実際の体験に行く。

事前に、子どものできること・できないこと、
学校で対応してほしいことを整理して、具体的にお願いをする。


しかし入学後、実際には交流できる機会がなかなか作ってもらえなかったり、通常級と支援級の時間割が異なるのでうまく入れない、といったことがありました。その度に学校と話す必要があったんです。紆余曲折を経て、今では理科と家庭科と給食を交流の時間としています。

妻は、こうした話し合いの時は特に僕が話すほうが良い、と言ってます。学校や教育委員会との相談時など、僕の方が「相手の圧力に押されたり感情的にならず話し合いができる」と思ったそうです。僕自身は、娘の子育てにずっと関わってきてるので学校選びだけが特別でもないんですが、しいて言うなら、交渉前にはある程度の知識武装をしておくと話しやすいです。

例えば他の区や地域の事例を把握しておいたり、障害者権利条約について知っておいたり。情報はネットでも出てきますが、先輩保護者に聞くのも大切ですね。大事なことは、障害者教育に関する知識をもっておき、現状この学校がどんな体制で、どんな問題点があるのか、あるいは、自分たちが希望することはどんなことか。そういったことを明確にしておくと落ち着いて話がしやすいと思います。もしも仕事でプレゼンに慣れているならパワポとか作っても良いかもしれませんね。

就学相談もすごく大切ですが、入学後こそ課題や問題がはっきりと見えてくるので、学校やPTA、教育委員会などとの継続的な対話を通じて方向修正をしていくことが重要だと感じています。


学校と具体的な対応について話し合うときには、
地域の事例、障害者に関する法律、学校の体勢などの情報を
ネットや先輩保護者に聞いて知識を身につけてから臨む。


先生「だけ」で決めず、見るべきポイント

学校選びの決め手になった先生は、1年生の時には担任にもなってくれたんですが、翌年異動になってしまいました。娘の場合は、1年生の時からずっと変わらずに成長を見守ってくれている支援級の先生もいるのですが、学校を選ぶ際、ある特定の先生だけを決め手にしてしまうと、異動もあり得ることは覚悟しておく必要があると思います。校長や教頭も異動があり、前任者の対応が引き継がれないこともありますので。

ただどうしても、学校見学では先生の雰囲気などに注目してしまいがちです。できれば学校の制度、仕組み、構造など、先生が異動しても変化しないことをしっかり確認する機会にすると良いと思います。もちろん校長や先生によって学校やクラスの雰囲気は変わるため、先生たちを知ることも大事ですが、そこだけに捉われないで選ぶ方が良いとは思いました。


学校見学では、制度や仕組み、
通気環境整備(トイレの位置など)を必ず見る。
先生も大事だけど、異動する可能性も考慮しておく。


様々な方の就学活動を知ることで、ひとりでは”どうしよう?”となってしまいがちな就学活動も、みんなで知恵を出し合い、“こうしよう!“と思いを新たに、新しい一歩を力強く踏み出せるのではないでしょうか?次回も、ぜひご覧ください。






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