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世界を救ってきた言葉と音 #3 冬にわかれて「もうすぐ雨は」
エッセイストとしても著名なシンガー・ソングライターの寺尾紗穂、星野源や細野晴臣など錚々たる面々のサポートベーシストとしても活躍する伊賀航、片想いとしての活動やソロ名義でのリリースも素晴らしいポップマエストロ・あだち麗三郎からなる3人組。「もうすぐ雨は」は、セカンドアルバムとなる「タンデム」(2021)の収録曲。
もうすぐ雨は止むんだよと
君は僕に言ったけど
雨が止んだら元通り
虹が出る日もあるのかい
今から出たら多分、あの橋のあたりで
僕ら会えるだろう
行けるところまで行くんだよ
僕ら多分、うまく会えるだろう
短絡的な見方だが、雨とはつまりコロナ禍の現在のことか。もちろん広義的には、君や僕が置かれているこのどうしようもない日常、労苦が絶えない日々、もしくは悲しみのことでもあるだろう。
それにしても、ため息が出るほどの名曲だ。出だしの鍵盤の音に、あだちが叩くやけに乾いたスネアと伊賀のベースが絡み出す瞬間のゾクゾク感ときたら! また、鳥取在住のアーティスト・塩川愛とイラストレーター / デザイナーの古山菜摘によるMVも秀逸。喉の奥がしょっぱくなる。
もうすぐ雨は止むとは言うけれど、それで本当に元通りになるのかい?と疑いを持つ自分。ここには、もう元には戻らないこともあるという諦めと現状認識がある。僕らはもう元には戻れないかもしれない。だからこそ、寺尾は強く歌う。「行けるところまで行くんだよ」と。それは祈りの言葉、願いのメロディーだ。「多分」うまく会えるだろう。多分、ね。何も確信的なことはなく、相変わらず宙ぶらりんなままだけれど、だからこそ人の心を打つ、世界を救う言葉がある。歌がある。
雨が止むかわからないけれど、それを信じて、傘をささずに歩いていくこと。どこまで行けるかわからないけれど、ね。そしていつか。世界中の君と僕が本当に会って、新しい何かが生まれるのを願っています。
アルバムはストリーミング配信されているのでぜひ。LPも待ち遠しい。