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megenai2020
読書記録:この世にたやすい仕事はない 津村記久子
“仕事”を構成する要素はたくさんある。やりがい、実績、人間関係、福利厚生、収入などなど。そのどれかの要素に凹みを感じると、「違う仕事のほうが向いてるかも」「他の職場にいけば悩まなくていいかも」なんて考えちゃう。どれもが100%絶好調!なんてのはないってわかっているのに、目まぐるしい日々の渦中にいては、頭を冷やすのが難しくて、感情がついてきてくれないことがある。
そんな混沌としたものを、この本はスーッと落ち着かせてくれた。
主人公は、ストレスに苛まれて仕事を辞めたのち、職安で紹介されるいろんな仕事を転々としていく。ストーリーが進むにつれ、彼女の仕事への向き合い方がわかってくる。情熱というのとはちょっと違って、“仕事”を敬う態度みたいなものが、彼女の真面目さや誠実さから伺える。自ずと、彼女が14年間勤め上げてきた仕事を辞めてしまった理由も見えてくる。
主人公が新しい仕事を始めるたびに、またいちからか、という感覚になった。でもそれは間違いで、いろんな仕事を経て気づいた自分自身のことや、職場で築いた人間関係など、彼女には確かに積み上げられたものがあった。彼女は進んだんだ、と思った。
どんな仕事も決して、“たやすくない”。どんだけ頑張ってたって、気をつけてたって、必ずどこかから難がやってくる。最初はなんだか虚無に感じた“たやすくない”のフレーズが、読み終える頃には、「まあそれが仕事、それが人生ってもんか」と思えるようになった。