会うと少し照れくさくなる人
1.幼少期からお世話になったお医者さん
父と似て私は喉と鼻が悪く、保育園生の時から近くの耳鼻科に通っていた。
土曜朝9:00。父と私の診察カードを受付に置いて、呼ばれるのを待つ。私達は大体2番どりで、耳毛がボーボー生えたお爺ちゃんの次、がよくあるパターン。
朝9:00って早いと思うかもしれない。でも私達の後にドッと人が押し寄せて、一気に病院の席が埋まってしまうのだ。
席がなくて壁に寄っかかる大人や、床に座り込む子ども達。病院の玄関には靴が散乱。帰る時は他人の靴を踏まないように、爪先立ちで靴を履いてドアを押す。
すぐに人がぎゅうぎゅうになってしまう、町の病院だ。
2.褒められて嬉しい自分
その耳鼻科では激しく泣く子の声が響く。診察台に座ったら、銀色の細長い機器を鼻に入れて、溜まっている鼻汁をズズズーっと吸い取る。
子どもからすると、細長い痛そうな機器を鼻の奥まで入れられるのが怖い。吸い取る音もかなり大きいから、ビックリする。嫌がる子をお母さんと看護師さんが押さえて治療する場面を、たくさん見てきた。
初めて私が診察を受けた時、どうしたら1番痛くならないかを考えた。
怖がって顔を激しく動かしたら、あの細長い銀色の棒が鼻の奥で余計に当たって、痛いだろう。ここは当たるのを避けて、まっすぐ棒が鼻の中に入るのがいいはず。
保育園生にしては冷静だったなと思う。目をつぶって、顔をクイッと上に上げたら、すぐに終わった。あまり泣かない子は見ないからか、「おおおーっ。すごいやん、泣かなかったね。」とお医者さんに言われた。
小さい頃から私は単純な性格だ。褒められて嬉しいから、耳鼻科に行くのが好きになった。診察の後は必ず褒めてもらえた。「えらいね〜。今日も泣かんやったね。珍しい子やなぁ。」
看護師さんからも褒められるから、とっても嬉しい。受付の人も、「みっこちゃん今日も泣かんやったね。」と言って処方箋を渡してくれる。褒められたことを父と話しながら楽しく家に帰る。とてもいい気分だった。
3.私の成長を見てきた人
中学生の時。学校終わりに制服姿で耳鼻科に行った。「あらー、みっこちゃん中学生になったのね。」と受付の人に言われた。お医者さんにも「早いなー。どこの中学校に通っているの?中学受験したのか、がんばったんやなー。」と褒められる。
診察中、懐かしそうに私を見る人たち。その頃から少し、恥ずかしい、照れくさいなと思うようになった。
就活中、リクルートスーツを着たまま診てもらったときも、懐かしそうに先生は私を見た。
「何歳になったの。早いねぇ。」
と言われて沈黙。眼鏡の奥から優しい目でじーっと見られる。。。。
実は私にとっては、治療に行くだけじゃなくて、自分は大きくなりましたよと挨拶する意味もあって、わざとスーツのまま行ったというのもある。
そうです、私もう大人になっちゃったんです。早いでしょう。でもそんなにじーっと見られるのは、やっぱり少し恥ずかしいです。。。(笑)
4.どうしているかな
あの優しいおじちゃん先生は元気にしているだろうか。ゴホゴホ息苦しそうに咳をする人達を、たくさん診察しているんだろう。
コロナがこんなに広まって、自分も看護師さんも受付の人もかからないように、十分気をつけながらも頑張っているんだろうな。
大人になってからは喉というより、気管が炎症を起こすようになって、呼吸器系の病院に通っている。この前も喉がこそばゆかったので呼吸検査をしたりして、何も異常が見られず漢方を処方されたところだ。
でも漢方を飲んでも、こそばゆさは治らない。あの耳鼻科に行こうか。でもこの程度なら自分が行くのではなく、他の重症な人が診てもらったほうがいいのかな。と思って漢方を飲み続けている。
早くコロナがおさまらないかなぁ。おさまって、いつもどおりの生活に戻った時に、またあの先生に会いたいなと思っている。