緊急事態宣言直前。LAのロックダウンで外食業界がどのように順応してきたかをヒントにする
ロサンゼルスはロックダウンされて(外出禁止令が出されて)、今日で18日目に入ります。それ以前から公立学校は強制的にクローズさせられ、レストランはデリバリーオンリーとなっていたので、実質的には市民が部屋にひきこもる生活が始まってから3週間経ちます。
この世界恐慌とも言える経済危機にあって、わたしは特に外食産業を心配しています。ニューヨークタイムズは、このロックダウンの結果、アメリカの個人飲食店の75パーセントは潰れると分析しており、実家が小さな飲食店を経営しているわたし自身も人ごとではありません。
明日になれば日本も緊急事態宣言が出るとされています。そうなった時に、外食産業はこれからどのように生き残っていけばいいのか。そのヒントがあるかもしれないと思い、ロサンゼルスのレストランがどうやってこの3週間で道を切り開こうと踏ん張ってきたのか、ご紹介したいと思います。
1: ドネーション
一番わかりやすいのは、見栄を張らず、寄付を募ることです。これは、今まで地元や顧客を大事にしていたレストランほど優位な方法かと思います。わたし達夫婦の大好きなレストランもやっています。Little Beastは、大人気の創作料理のレストランですが、店を予約だけで一杯にしないというポリシーを持っています。それは、「地元の人がフラッと立ち寄っても入れる店でありたいから」だと予約の時の電話で教えてくれたことがありました。ここのお店のサーバーさんたちは、きちんとしたレストランにも関わらず、赤ちゃんを連れていってもいつも優しく迎えてくれました。そういう日頃からの姿勢がある店は、ドネーションを求めれば、きっと助けてくれる人たちがいます。日本人の問題で考えられるのは、潰れる前に、店主がプライドを捨てられるかどうか、だとわたしは思っています。潰れたら終わりですから。どうぞあなたの店を愛するお客さんのためだと思って、寄付の道も考えてみてください。
もう一つ、ドネーションを募る上で大事な点は、「これは(店ではなく)従業員を助けるためです」ときちんと明記することです。アメリカのレストラン業界は、基本的にはチップ文化なので、従業員はアルバイトとして時給制であり、異常に高い保険を自腹で払う必要があります。ダウンタウンで4つのレストランを持つ有名シェフJosef Centenoのアプローチは、「従業員の保険をきちんと払ってあげたい」というはっきりとした意思表示でした。
ここで得た寄付は100%が従業員に渡るという約束、そして150ドル以上寄付してくれた人には自ら藍染めをしたスウェットシャツを送るというギフトも付けています。この緊急事態において、何よりも従業員の健康を守る。リーダーシップとして最高だと思います。
最後の注意点として、このドネーションのキャンペーンは、やるならば出来るだけ早めにやった方がいいです。まだ経済が回っていて人々に余裕があるうちに、タイミングを逃さずに早めに踏み出すことが大事です。
2: デリバリー
数多くのレストランが最もすぐに飛びついたのは、言わずもがな、デリバリーです。ただ、デリバリーをするにも、それだけではとても通常の売り上げには追いつかないので、結局一時的に全てをクローズしてしまった店も多いです。ここで大事なのは、どれほどフレキシブルに新たな道を生み出していけるか、ということでしょう。
(写真:LA Times)
この生き残り競争では、高級レストランさえも必死でデリバリーメニューを考えているのです。例えばロサンゼルスで最も有名なレストランのひとつn/nakaは、通常一人300ドルはする割烹料理の店ですが、38ドルの弁当と、85ドルの重箱を出して大盛況しています。夫も滅多にないチャンスだからと早速注文をしようとしましたが、2週間先のキャンセル待ちしかできなかったほどです。ここでも妙なプライドは捨てつつも、持っている中で最も素晴らしいパフォーマンスを出すことを目指し、新しい切り口で攻める戦略が功を奏しています。
そしてもうひとつ、ただでさえ顧客の財布の紐が固くなっているこの時に、デリバリーの大きな落とし穴の一つとして、「食事からウィルスが感染するのではないか」という人々の不安があります。これが購買意欲を抑制し、なかなか売り上げに繋がらずに諦めてしまうというパターンは避けたいところです。ですから、メニューは出来るだけ火を通したものを出すと安心感につながるでしょう。
3: ギフト・サーティフィケイト(ギフトカード/食事券)
これは、今回のことに限らず、「レストランの食事という経験をプレゼントする」というとても健康的な運営のあり方です。このギフト・サーティフィケイトという方法は、カジュアルや高級などのスタイルに関わらず、欧米の多くのレストランが通常から採用しています。わたしも友人からの結婚記念日のギフトとして、ある高級レストランの食事券をいただいたことがあります。「モノより思い出」ですね。この方法だと、送る方は相手への感謝を伝えられ、送られた方は体験というギフトで喜び、サービスを遂行する方は先にお金が入ります。win-win-winですね。今の状況では、送られた方はレストランに行くのが少し先になってしまいますが、楽しみはとっておく方が良いというものです。または、デリバリーに使える券を発行するのもいいですね。
日本には「さきメシ」や「ごちメシ」というサービスがあるそうです。
4: お客さんとの繋がり
小さな個人飲食店はどうやってお客さんとの繋がりを保っていけばいいのでしょうか? これまであげた3つの項目は、深くテクノロジーと関係しています。せっかくこういうシステムがあっても、お店の方自身が使えなくては意味がありません。もしテクノロジーに弱い店主がいたら、どうぞ従業員でもお客さんでも若い方が助けてあげてください。意外にここが盲点だったりします。Facebookページを開設して使い方を教えてあげるなど、単純なことでも良いのです。お客さんとの直接の接点をなくしたお店は、今こそ積極的に広告宣伝していかないといけません。
(写真:こう楽Facebook)
5: 今までのメニューにこだわらない
これは最近になって出てきたサービスです。そもそもレストランという概念を飛び越えて、「料理」を売るのではなく「素材」を売るという方法に移行し、自分たちを「〇〇(店名)マーケット」と名乗る店が増えてきました。
(写真:Union)
例えば、近所の高級イタリアンレストランは、魚介パスタなどの料理を売るだけではなく、手作りの美味しいパン、ワイン、高級バター、オーガニック野菜、卵、オリーブオイル、チーズ、小麦粉など、そもそも料理に使っていた食材を、セットにして売っています。これはそのレストランが使っていた自慢の食材を売るという行為なので、料理通にしてみたら、たまらないアイテムです。そして混んでいるスーパーに行くというリスクも減らせます。このニュースにいくつか例が載っているのでぜひご覧ください。
また、こういう流れの中ではユーモアのセンスも大事です。中には「100ドル買うと、トイレットペーパーひとつプレゼント」を売りにする(シャレにする?)お店もあります。何かしらの面白いサービスを作ると、SNSで拡散してもらえたりもするので、今までの商品やサービスにこだわらないクリエイティビティと常識を破る勇気が必要です。
世界が変わる。自分も変わる。
さて、長いこと書いてきましたが、他にも色々方法はあります。アメリカも救済策をなんとかしないといけないので、例えば、「家賃を一年間滞納するのを合法にする」だとか、「アルコールの販売規制を緩める」などをして工夫しています。日本もこれから諸外国の例を研究しながら救済策を出してくれるものと思います。これらのニュースに敏感になって、とことん活用しない手はありません。大事なのは、この不透明な時代に、いかに順応していくかです。
ロサンゼルスでは、数日前「これからはマスクをするように勧める」と公式ガイダンスが出されました。日本人にはなんともないことですが、アメリカにはそもそもマスクの文化がなく、アメリカ人にとってこれは180度違う価値観なのです。SNSを見ていると、強い拒否反応がありました。日本人で例えると「これから挨拶がわりにほっぺにキスしてね!」と政府に言われるくらいの衝撃なのです。でも生き残るには文化を根底から変えなくてはならないこともあるのです。
わたしの両親はこれまで半世紀以上同じ店を経営してきました。映画『Jiro Dreams of Sushi』に出てくる職人のような頑固さで、どんなことがあっても「店を閉めない」ことをプライドとしていました。交通事故を起こして肋骨を折っていても店に立つような、そんな家族です。それがなんと緊急事態宣言が出るというニュース以前から、今週からお休みを取ると決めていたのです。わたしが説得したわけではありません。でもこの順応力にわたしは深く感動しました。だからこそ3年で70%が閉店すると言われる飲食業界で、彼らの店は50年も生き残ってこれたんだと、強く理解しました。高齢者が経営している店は、ジタバタしないということも勇気のひとつです。
生き物は、最も強いものが生き残るのではなく、最も順応力が高いものが生き残ると言われます。何を変え、何を守るのか。ここでご紹介したように、レストランだからといって、食べ物を売らなくてもいいのかもしれません。レシピだって売れます。レストラン同士が押しのけ合うのではなく、助け合えるようなサービスを出すのもいいですね。とにかく今までの概念を覆すアイデアが必要な時です。今まで自分が持っていた枠を、どのくらい広げられるか。それが今求められている、一人一人の強さなのだと思います。今こそ自分自身を知り、自分のサービスの本質とその可能性を見つめる時です。
外食産業の皆さまが、来年も再来年も、ずっと笑顔でいられますように。
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