何もしていないと言う人ほど、何もかもをしている
〜12月18日 10:30
第1章 「図書館の不思議な午後」
桜井真琴は、静かな図書館の片隅で、一冊の厚い本を膝に乗せて座っていた。午後の陽射しが、窓から差し込む光とともに、彼女の周りを穏やかな雰囲気で包んでいた。本のページをめくる音だけが静寂を破り、その音はまるで彼女自身の心の鼓動と重なり合うようだった。
彼女が読んでいたのは、古代エジプト文明に関する本だった。ファラオの黄金の棺やピラミッドの建設技術についての詳細が描かれており、真琴はその内容に夢中になっていた。彼女の心は、本の中の時代に飛び込んでいた。まるで自分がその時代の一員になったかのように感じられた。
その時、隣の席から声がかかる。「真琴ってさ、何してるの?」
振り返ると、黒崎雅人が立っていた。彼はいつも陽気で友達に囲まれているタイプで、図書館にいること自体が珍しい。そんな彼が自分に話しかけてくるとは、驚きだった。
「いや、何も……ただ読んでるだけ」と真琴は少し恥ずかしそうに答えた。
「そっか、でも何の本?」と雅人が興味津々に聞く。
「古代エジプトについて」と言うと、雅人は少し興味を示しつつも「難しそうだね」と笑った。真琴は心の中で彼が理解できないことを知りつつ、再び本に目を戻す。
その瞬間、奇妙なことが起きた。読んでいた本の中から、小さな羽虫のような生き物がふわりと飛び出してきたのだ。それはまるで夢の中から抜け出してきたかのように、軽やかに空中を舞い踊り、真琴の頭の上をくるくる回り始めた。
「えっ、何これ?」と雅人は目を丸くした。
「わ、私も分からない……」と真琴も驚きながら、その小さな生き物を見つめた。体は小さなウサギのようだが、耳がまるでガラスのように透き通るように見え、動き。背中に蝶のような透き通る羽が。そして、どこか人懐っこい顔でこちらを見上げている。
「こんにちは、拙者はフウタと申す者でござる。何でも本の世界から迷い出てしまったらしく――いや、困った困った!」と、その生き物が人間のように話し始めた。
「は、話した?」黒崎はすっかり腰を抜かしたような声を上げる。
「フウタ、ですか?」真琴は不思議と怖さを感じず、むしろ親しみを覚えた。
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11月18日 10:30 〜 12月18日 10:30
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