〜銃撃映画10選〜
銃の引き金を引けば、画面に緊張感が張り詰め、殺気を帯びた映画は格調高いものになる。銃一丁で物語は動き出し、映画においてなくてはならない重要なパーツに化ける。
今まで観た中で胸を射抜かれた10本をチョイス。
1. ストリート・オブ・ノー・リターン (1989)
サミュエル・フラー (フランス・ポルトガル)
声を奪われた歌手が復讐を誓うドラマで、かつての栄光と枯れてしまった人生の対比が抜群に効いたアクション映画の秀作。サミュエル・フラーのカッコ良すぎる遺作なのはもちろん、老いを感じさせない無駄のないカットの連鎖反応が爽快で、男の悲哀とギミックありのバイオレンスで埋め尽くされていてたまらなく面白い。夜をメインに据えた怪しげな緊張を醸し出す画面は文句なしに痺れるし、殺気に満ちた男たちの戦闘が繰り広げられる終盤の異様なぶち上げ方に感服。メロドラマも兼ね備えた彼が行き着いたフィルムノワールの終着点。荒々しさはこれまでのフィルモグラフィ以上に爆発し、シンプルかつ推進力のあるストーリーは否応なしにこちらを引き摺り込むアトラクション的快感がある。
2. TOKYO EYES (1998)
ジャン=ピエール・リモザン (フランス・日本)
この映画にパッケージされた全てのTOKYOのカットが圧倒的にクールで、この空気感こそが自分の求めるレトロなTOKYOの理想系でもある。当時のギャル文化を体現する自由奔放な吉川ひなのがまず良いし、東京で連日起こる謎の発砲事件という決して他人事ではない距離感での恐怖が意外な形で互いに接近していく。理屈抜きでこういった平成初期の東京の風景に憧れを抱いてしまうのは、もはや自分の性癖みたいなものだからしょうがない。フランス人の視点で捉えた一種の妄想された都市での雑踏、騒音、怒り。日本という国で生のフランスの感覚でヌーヴェルヴァーグを作り出した希少価値の高い映画。クラブカルチャーをはじめとした音楽も最高だし、何より脚本で坂元裕二が参加しているのには驚かされた。かなり好きだったのでもっと気軽に観られるようにしてほしい。
3. 殺人捜査線 (1958)
ドン・シーゲル (アメリカ)
やはりドン・シーゲルのバキバキとしたスピード感と大胆なアクション演出は一級品。刑事側と犯人側のリアルタイムな状況を交互に描くことで刻一刻とした変化を切り取り、それらが一直線で事件の発生から結末までシンプルな繋がりで非常に気持ちいい。ストーリー的な面白さや映像の迫力に加えて、サイレンサー付きの拳銃や白い粉が仕込まれた人形といった印象的な小道具も大活躍で、決定的瞬間を捉えている点も優れている。この時代のクライム映画の醍醐味が集約されていて、予算や技術的制約がある中で、コンパクトな尺に一つの事柄だけを描く簡潔さ、緩むことのない緊張の持続、ほんのちょっとのアイデアとセンスで抜群なエンターテイメントとして仕上がっていて素晴らしい。
4. ヒストリー・オブ・バイオレンス (2005)
デヴィッド・クローネンバーグ (アメリカ・カナダ)
ホームドラマをベースにし、安易にグロに走らないクローネンバーグの秀作。平穏な日々に突如として訪れる暴力の影、家族のために立ち上がる男のヒロイックな美談かと思いきやそう一筋縄ではいかない。サム・ペキンパー的な暴力を暴力で解決するどうしようもなさに加えて、釈然としない不穏さが際立つ作風で、ストーリーとしてはかなりシンプルだが骨太でもある。キレッキレのアクションシーンが見事で、確実にトドメを刺すまでの一瞬に見惚れてしまう。家族を守るための正当防衛もしくは敵を追い払うための暴力、このまま変わらぬ日常を過ごせるという思い込みに亀裂が生じ始める。ONとOFFの緩急が効いたドラマとしても質が高く刺激的な作品。
5. 続・荒野の用心棒 (1966)
セルジオ・コルブッチ (イタリア・スペイン)
ジャンゴがひたすらかっけー映画。それ以上でもそれ以下でもない。用心棒と名のつく映画にハズレなし。ジャンゴが棺桶を引きずる長回しのオープニングから見惚れてしまう。用心棒スタイル故に主人公は基本最強。40対1の絶望的な早撃ちを強いられる状況でルールを無視したガトリングの掃射が敵を一掃、咄嗟の逃亡でまさかの方法でのガトリング演出、そしてラストに待ち構える決闘、全てがカッコよくて寡黙で頭も切れるしそりゃマリアだって惚れる。命さえあればやり直せる、男の花道を体現していて抜群にキマっている。リンチ描写や泥まみれの描写など過激な場面が多いが、終始エンターテイメントに徹した西部劇の快作。
※タイトルに"続"とあるが、セルジオ・レオーネの「荒野の用心棒」とは無関係なので単発で楽しめます。是非!
6. ジャグラー/ニューヨーク25時 (1980)
ロバート・バトラー (アメリカ)
元警官の男が誘拐された娘を助けに行くだけのストーリーだが、序盤からいきなりカーチェイスでぶっ放し、その後も基本場所が変わっていくたびに暴力でその場を乗り切っていく動きの連鎖がたまらなく気持ちいい快作。主人公は犯人を追う、警察は犯人を追うあまり周囲をメチャクチャにしていく主人公を追うという、追って追われてのパターンが失速することなくラストまで突き抜けていく。そしてここで終わらせるかというラストもお見事。全てにおいて潔い。アメリカ産の刑事絡みのアクションは特にこの年代は傑作が多い。超面白いのにVHS止まりはもったいない。
7. エグザイル/絆 (2006)
ジョニー・トー (香港)
猛烈にカッコいいシンプルイズベストな香港ノワールの傑作。4人の男たちの寡黙さと無邪気さのコントラスト、タイトルの絆という文字にあるように緊張感の中に人間臭さが滲み出ているのが味わい深い。ウォッカを回し飲みして、大金の使い道をそれぞれ夢見がちに語ったり、やんちゃに写真を撮る。そこに青春にも近い輝きが感じられた。そして銃撃戦もさまざまな仕掛けが施されたかなり見応えのあるもので、レッドブルの空き缶を撃ち上げてから一瞬で終わるまでの激しい戦いがひたすらに潔くクール。コイントスの表裏のように常に選択は二択、逃げるか戦うか。無駄なものを削ぎ落とした演出がたまらないし、全てにケジメをつけようとする彼らの生き様に痺れる。
8. ストレート・トゥ・ヘル (1987)
アレックス・コックス (アメリカ)
この映画から感じ取れるのは、友人を集めて良さげなロケーションを見つけて撮ったであろうラフなハンドメイド感。拳銃はファッションアイテムと化して、ひたすら銃声によってストーリーが加速していく即物性。そしてアクションと西部劇とコメディをかい摘んだあやふやなバランスで成り立っていると思う。ジョー・ストラマー、コートニー・ラブがメインを張るので洋楽好きとしては興味がそそられるし、勢いに身を任せたB級を期待していたので勝ち。この手の作品は頭を使わないが故に、絵の一つ一つが勝負で、そのおかげで画面が生き生きとしているように見えてくる。チバユウスケもこの映画を見てモデルガンを買ったなんてお茶目なエピソードもある。躍動感溢れ役者してるジャームッシュが見れるのが面白い。
9. バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト (1992)
アベル・フェラーラ (アメリカ)
ダメ男の映画は基本面白いと思っているが、それに拍車をかけるようなハーヴェイ・カイテルの凶暴さが合わされば生々しく実録モノのような鋭利さが宿る。刑事の肩書きはギャップというよりも設定の一つに過ぎず、一人の人間のはみ出しまくった倫理観を見続けることになり、ドラマ性を排除したドラマのような淡々さが残る。しかし悪事を繰り返すだけのリアリティの反復というだけでなく、終盤にかけてはごく自然にフィクションへと繋がっていく思いがけない揺さぶりが用意されている。後悔してももう遅いと、目先の欲望に溺れていき、気づいた頃には自身の弱さに囚われてしまった男の生き様。
10. 復讐は俺に任せろ (1953)
フリッツ・ラング (アメリカ)
フリッツ・ラングはやはりサイレントのイメージが強いけど、このコンパクトな尺に見事なまでにまとめ上げられたノワールは最高に面白い。自殺した夫を目の前に一切動揺しない妻のファーストシーンから怪しく、掴みとして抜群にそそられる。不可解な事件から幕を開け事件の究明に勤しむが、火種が大きくなり主人公の周辺でも異変が起き始める。そして復讐心を誓うことになる決定的瞬間から訪れる歯止めの効かない感情、肩書きを捨ててまで全うしようとする揺るがぬ使命感、非情な運命に身を落とし孤独に転がっていく。ハードボイルドながらも復讐心に燃える主人公もカッコいいし、傷だらけになりながらも危うい立場にいる悲劇のヒロインがいたりとキャラクター的にも魅力が溢れた良作。
最近の興味はフィルムノワール、西部劇、コメディ、B級映画なのだが、どのような銃撃戦を描くかで作家性やジャンルの特徴が見えてきたりして面白い。今はじっとしている映画よりも画面の運動が観たい時期で、自分のツボの傾向をこれから探っていきたい。
〜完〜