ノーモア ヒーローズ(シナリオ)

テーマ:復讐

人物
西島礼子( 24 )販売員
西島雅弘( 26 )会計士
沖田正雄( 50 )礼子の父・警察官
友人1
友人2
友人3
友人4
看護士

○とある道(夜) 
閑静な住宅街。 
坂道をトボトボと下っている西島礼子(24)。坂道の頂上が光で白み何台ものバイクのエンジン音が響く。

○西島家・雅弘の部屋(夜) 
おびただしい数のフィギュア、ポスター等が整理整頓され部屋全体に飾られている。机の上で戦隊もののフィギアの手入れをしている西島雅弘(26)。 

○とある道(夜) 
暴走族風の若者達が10台程のバイクで現れ礼子を取り囲む。 

○慶英病院・病室(夜)
月明かりが沖田正雄(50)の寝顔を照らしている。 脇の机に沖田正雄と記されたれた薬袋と紫の手袋が片方だけ置いてある。

○とある道 (夜) 
目付きの鋭い男がバイクを降り後ろ手に何かを持ち礼子にゆっくりと近づく。 若者達がにやける。 
 
○国館大学附属病院・全景 
入口の門に国館大学附属病院の札。

○同・ 婦人科待合室 
ドアの入り口に産婦人科待合室の札。思い詰めた表情で座っている礼子。名前を呼ばれ立ち上がる 。 

○同・診察室・中
椅子型の診察台と脱衣籠 。診察台の前の仕切りカーテンを引きながら

看護士「下着を取って座って下さいね」
礼子引きつった顔で頷く。カーテンの向こう側から
医師の声「触診とエコーを撮ります。あ、それから医学生が2人立ち合いますから 」 

医学生に診察の説明をする医師の声。
看護士「(礼子の耳元で)お医者様になる人達だから大丈夫よ」 
礼子一瞬ためらうが口を固く結び頷く。 
診察台に座る時捲れたカーテンの裾から医学生の1人の手が小さくガッツポーズしたのが見え動揺する礼子。
診察台が自動的に動き椅子が傾き出す。 
礼子一瞬目を閉じた後、天井を強く睨み自分の右手の甲を噛む。 

○病院前のバス停(夕) 
バスを待つ数名の客。礼子放心状態でベンチに座っている。バスが停車し走り出す。1人ベンチに座ったままの礼子。寒さに震え鞄から紫の手袋を出し左手にする。もう片方を探すが見つからない。携帯電話が鳴る。 

母の声「 もしもし? 礼子? 」 
礼子「うん」 
母の声「 今どこ? 残業なら今日は来なくていいよ。安定してるんだし」
礼子「平気、今向かってる途中だから」 
母の声「そう?無理しないでよ 」 
礼子「(力なく微笑み)するよ...」
母の声「え?」
礼子「私いい娘じゃなかったから。今までどれだけお父さんに迷惑かけて......」 
母の声「礼子......」
礼子「娘として出来る事全部したいの。ううん、娘にしか出来ない事を」
母の声「(優しく)今日はゆっくり休みなさい。焦らないでやっていきましょ。ね?じゃあね」
切れた電話を俯いて見つめながら 
礼子「間に合わないかもしれないじゃない」 
礼子の内出血した右手の甲に一滴の涙。

○西島家・リビング 
友人1煙草を机上の本の横に置く。 上着を脱ぎながら壁の礼子と雅弘の恋人時代の写真を順番に見ながら

友人1「今日旦那は?」  
礼子「アシュレイのお葬式」 
友人1「へ?ア?外人のダチいんの?」
礼子 「アニメのヒロイン」 
友人1引きつりながら  
友人「へ、へぇ... ... 死んだんだ」 
礼子「コーヒーいれるね」 
礼子机の本を本棚になおす。不妊に関する本が数冊置いてある。
本棚の上に薔薇の花と銀色の額縁の写真立てが飾ってある。(写真は明確には見えない) 
友人1「 あー、その薔薇?」
礼子「うん」
友人1「礼子があいつらのヒロインって訳だ 」 
礼子「(苦笑して)やめてよ」 
友人1「(嬉々として)でもバイクで派手に来たら通報されるつーの。バカな奴ら」
礼子「だからあんま話せなかった」 
コーヒーを飲みながら友人1煙草を礼子に勧める。微笑み首を振る礼子。
友人1「(感嘆して)あんだけヘビーだったのに。ホント色んな意味で礼子は鉄の女だね」

○秋葉原・大通り(夜) 
通りを挟み大型電気店が乱立している。 
雨で街全体が煙って見える。 路肩に寄せた車から礼子が降り、赤い傘を差しメモを見ながら歩き出す。

○オタク系居酒屋・店内(夜)
店内の壁にアニメポスターやマニアックな品書き。 
喪服姿で酔って騒ぐ若者達の中に泥酔し、1人悲しげな表情で寝ている雅弘。 
友人2「 無事遺品を手に出来て俺達は幸せだ」 
友人3雅弘の買物袋(4袋)を覗き
友人3「これ超激レアの!30万すんのに! 」 
一同一斉に雅弘の袋を囲み騒ぐ。 
友人3「 あーあ、いきなり現実。小遣い3万で昼飯ケチってやり繰りしてる自分が惨めだよ」
友人4「しかも3人目できちゃったし?」
唸って、項垂れる友人3 。
友人2「 だから俺や雅弘みたいにやっとけば良かったのに」
友人2手でハサミの形を作り局部辺りを切る仕草 。 
友人4「嘘!マジ!?」
友人2「子供1人育てるのに一体いくら掛かる?ん千万か?レア物何体買えるよ?」
友人3「でも子供は欲しいし......」
友人2「王国建設には金がかかるんだよ」
友人4「ネバーランドでも作る気かよ。でも羨ましいよ。ブレてないって感じで」
友人3「 ヒロ君の奥さん、アシュレイそっくりだって」 
友人2「 だから結婚したんだよ。疑似恋愛を現実の方でしてるって訳 」 
盛り上がり酒を飲む一同。 
雅弘達の席近くの通路に強ばった表情で立つ礼子。傘を落とし去って行く礼子。
雅弘寝たまま声を出して笑う。
友人4「あーあ今度はにやけてるよ。(腕時計を見て)奥さんまだかな」
友人4店の入り口に目をやる。

○秋葉原・大通り(夜) 
土砂降りの雨の中ふらふらと人波を歩く礼子。涙が込み上げ声を上げて泣き出す礼子。礼子を避けながら訝しげに通り過ぎる通行人達。

○雅弘の部屋(深夜)
ドアのロック解除の音。酔った雅弘が部屋のドアを開ける。 
暗い部屋で椅子に座っている礼子の後姿が稲妻に照らされる。 雅弘ろれつが回らない口調で

雅弘「礼ちゃん?こら!入らない約束でしょ」 
礼子の吸う煙草の煙が窓からの薄明かりに煙っている。おぼつかない手で電気をつける雅弘。くるりとイスを回し雅弘と向き合い
礼子「おかえり」
電気がつく。
礼子「ピーターパン」
派手な化粧と赤いライダースーツを着て深く椅子に座っている礼子。
雅弘「ん?何?なんかのコスプレ?」
にやけながら床に座り込む雅弘。
礼子大きく煙を吐きながら立ち上がり壁のアシュレイのポスターに煙草を押し当て火を揉み消す。 
雅弘「(悲鳴)!!」 
立ち上がろうとした雅弘の鼻先に鉄パイプを突き付け 
礼子「これ見て何か思い出さない?」 
領収書を雅弘の方に近づける。
雅弘「ど、どうしてそれを......」
礼子「パイプ繋がりなんだけど?」
鉄パイプで雅弘の顎を上げ薄く笑い見下ろす礼子と激しく動揺し始める雅弘。
雅弘「そ、それは、その......」
礼子「思い出せない?じゃぁ」
フィギュアの上で鉄パイプを振りかぶる礼子。
雅弘「(悲鳴)ごめん!! 礼ちゃんと付き合う前に手術を 」 
両手で拝む雅弘を覗き込む様に座り 
礼子「面白かった?子供欲しがって色んな事してる私を見て」 
雅弘「言い出せなかったんだ。ごめん!!」 

土下座する雅弘。立ち上がり礼子が鉄パイプを華麗にバトンのように回す。一瞬音が止み、雅弘恐る恐る顔を上げる。
礼子が舞うように次々とフィギュアを叩き壊していく。雅弘絶叫。 


○西島家・外(深夜)
雨風が木々を激しく揺らしている。雅弘の部屋の窓が割れフィギュアや本などが次々と外に放り出されていく。

 
○同・雅弘の部屋(深夜)
滅茶苦茶に壊された室内。電球も割れ薄暗い。窓からの風で礼子の髪や紙切れが吹上げられている。礼子鉄パイプを床に投げる。床には白目をむいて倒れている雅弘。

◯同・リビング(深夜)
礼子棚の銀色の額縁の写真立てを手に取る。お揃いの剣道着姿で写る正雄(37)と礼子(11)。籠手に沖田の記名。正雄の腕にぶら下がる笑顔の礼子。正雄の首には金メダルがかかっている。
礼子「ヒーローは一人でいいんだよ 」 
用意していた鞄に写真立てをしまい、玄関に向かう礼子。
玄関のドアが閉まる音。

〈完〉

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