有吉佐和子さんの著書『恍惚(こうこつ)の人』の解説より

有吉佐和子さんの著書『恍惚(こうこつ)の人』の解説は、社会福祉学者の森幹郎さんである。昭和57年当時の老人問題について書かれており、今日の高齢者の方々がどのようにして自分の親と向かい合っていたのかを知ることができる小説でもある。

昭和57年(1982年)の寝たきり老人の数は30万人を越えており、限られた財源の中で、「寝たきり老人対策」が優先されていたという。

当時の厚生省の所轄課長は、「老人ホーム」の入所者がぼけていく場合はお世話していますが、本来、(*痴呆の老人の対策)は精神衛生対策の分野。狭い意味での老人福祉では対策はありません」と言っている。
(昭和56年1月13日付毎日新聞「記者の目」)

*今現在「痴呆」という言葉は使っていない

我が国の老人問題

昭和30年代の中頃から始まる高度経済成長。それ以前、ほとんどの家族の手によって家庭の中で解決されてきた老人問題。都市化、工業化の進行の中で、家族の手ではどうにもならなくなっていた。

昭和36年(1961年)国民皆年金の体制がしかれ、老人の経済面での扶養を労働者世代で引き受ける仕組みがしかれた。(老齢年金)

心身共に健康なうちはそれでもよいが…人の手をかりなければならなくなると老齢年金だけでは生活していけない。そこで

昭和38年(1963年)老人福祉法が制定され、老人を介護する家族を援助するために、ヘルパーの派遣や特別養護老人ホームの設置などが規定された。

平成12年(2000年)にスタートした介護保険制度は、高齢者の介護を社会全体で支えるための制度で、40歳以上のすべての国民が加入している。

2000年に40歳以上になったのは、1960年生まれ。
年金受給年齢が60歳から65歳へと引き上げされた人達の時期と重なっている。

行政の施行のタイミングにも、そこに理由があるのではないだろうか。
ゆえに他人と比べて一喜一憂するのではなく、国内の人口比率を知り、自分の人生設計をきちんとしておく必要がある。

有吉佐和子さんの『恍惚の人』は、親の時代を知り、自分はどのような選択をしようか、考えるうえでも、解説された森幹郎さんのいう「我が国の老人福祉史の上に記録されるべき小説」である。