駄菓子んぼ 第24話 サバの失踪

栗間(今日は高松警部の学生時代の後輩・片山よしおさんが海鮮丼のお店をオープンにしたので開店祝いに私たちも呼ばれました。)

片山「皆さん、今日はお忙しい所、本当にありがとうございます。こんなに高級なお酒までいただいて!」

山田岡「いやぁ、海鮮丼のお店と聞いて楽しみでねぇ!
高松警部と出会って良いことなんか一つもなかったけど、今日初めて出会えてよかったと思ったよ。」

高松「山田岡の旦那、それはどう言う意味だい!?」

山田岡「いやいや、冗談だよ、冗談!だから早くそのニューナンブをしまいなって!」

栗間「もう、高松警部ったら、相変わらずクレイジーなんだから!」

高松「久しぶりに人に銃口を向けたら、えらく腹が減ってきた!おい、片山、何か美味いもんを出してくれ!」

片山「ハイッ!それではウチの看板メニューの一つでもあります、こちらを皆様どうぞ!」

栗間「あれ?これは」

山田岡「んー、モグモグ、これは、サバだ!」

山田岡、栗間「締めサバ丼っ!」

片山「ハイ!新鮮なサバをしっかりと締めて丁寧に味付けしたものになります。いかがでしょうか?」

山田岡「海鮮丼の看板メニューが締めサバなんてあんまり聞いたことないけど、これはいけるなぁ」

栗間「適度な酸味と味の締まった感じが食欲をそそるわね。とっても美味しいわ。ね、高松警部?」

高松「……………。んー、こりゃ確かに他のところで食う締めサバとは一味も二味も違う。片山、お前もしかしてまだ?」

片山「い、いえ、もうあの時のことなんてもうとっくに切り替えてますよ。今は店もできたばかりで仕事一筋に生きていこうと燃えてますよ。さぁ、ちょっと風が強くなってきたので窓をしめますか!」

ポトッ

栗間「ん?片山さん何か落としたわよ。」

片山「ん?あっ、いやこれは何でもない!」

山田岡「女性の写真?凄い綺麗な方だな。」

高松「片山、テメェまだやっぱり、あの女のことが忘れられねぇのか!」

片山「いや、これはその、あの」

山田岡「おいおい、高松警部!一体どうしたってんだい?声なんか荒げて」

高松「声も荒げたくなるさ。片山はその写真の女、磯辺愛美と2年前婚約をしてたのさ。」

山田岡、栗間「婚約っ!?」

高松「あぁ、しかし突然、ごめんなさいの手紙とその写真だけ残していきなりコイツの前から消えやがった、残されたコイツはしばらく意気消沈で、、、ふんっ!全くいい加減な女だったってわけよ。」

栗間「まぁ、そんなことが!?でも何故突然姿を消したのかしら?」

高松「大方、他にいい男でもできたんだろーよ。全くコイツは馬鹿のつくくらいお人好しだから、それ以降も落ち込みはしたけど、その女のことを恨んでねーとまで言いやがる。悪い女だってんだよ。」

片山「いえ、彼女は悪い女性ではなかったと思います。何か僕の方に問題があったのかと、何かのっぴきならない理由があったと思います。」

山田岡「その彼女、どんな方だったんだい?よかったら聞かせてくれるかな?」

片山「ええ、サバの大好きな女性でした。名前は磯辺愛美と言いまして、歳は僕と同い年でしたが、大人っぽい女性、決まってデートの後はサバ料理の店に行ってサバについて熱く語ってくれました。」

栗間「サバが好きな女性、それでこの店の看板メニューもこの締めサバ丼に!」

片山「ええ、あれだけサバの好きな女性だったのでもしかしたら、この店の締めサバ丼が口コミで広がってくれたら、彼女も来てくれるかなんて思いまして」

高松「全く、どれだけお人好しなんだよ。そんな突然いなくなった女、仮にここに食べに来てもサバだけ食べてバイバイされるのがオチだよ。」

片山「それでもいいんです。僕ぁ、彼女が幸せそうにサバを食べている姿を見るだけで、それだけで満足なんです。」

山田岡「んー、その突然いなくなった時に何か彼女の言動に違和感はあったかい?」

片山「特にこれといってなく、突然置き手紙をして、、、でも一つだけ、気になった点が」

山田岡「なんだい?」

片山「彼女が僕の元からいなくなる前日、その日もサバ料理を2人で食べていました。いつもは幸せそうな顔で食べるのにその日だけは何だか寂しそうな顔で食べていました。」

栗間「サバを寂しそうな顔で!?」

片山「ええ、特にデザートにこれを食べた時なんかもう目がウルっとしていて、もしかしたらあの時に何か彼女は伝えたかったのかなと思い」

栗間「あれ、それは?!」

山田岡「こっちゃんの駄菓子、サバサバしてんじゃないわよ!だ。これも彼女は好きだったの?」

片山「ええ、食後のデザートは決まってこれを食べてました。出かける時もバッグにこれを常備していて、親指と人差し指でつまんで優雅に食べる姿が素敵でした。」

高松「ふんっ!どうせ次の男に行く口実を考えたけど、うまく浮かばなくてそれで困った顔でもしてたんだろーよ。」

山田岡「んー、、寂しそうな顔でサバを食べてたのかぁ。」

(帰り道)

栗間「山田岡さん、その愛美さんって女性、高松警部が言ってたようないい加減な女性じゃない気がするわ。何か理由があったのかもしれないわ!」

山田岡「んー、そうだなぁ!栗間さん、ちょっと駄菓子屋に寄るけど一緒についてくるかい?」

栗間「こんな時間に駄菓子屋?もうどこも空いてないんじゃない?」

山田岡「いいからついてきなって!」

(10分後)

栗間「まぁ、とっても風情のあるお店だわねぇ。でももう閉まってるんじゃないの?」

山田岡「おーい、おっちゃん?!山田岡次郎だよー!おっちゃーん?!」

ガラガラガラガラ

森田「はいはい、そう大きい声を出さなくても聞こえてるって!次郎くん、久しぶりだね!元気そうだね!」

山田岡「おっちゃんも元気そうで何よりだ。栗間さん、紹介するよ、こちらここの駄菓子屋の店主、森田浩三さん、こっちは同僚の栗間さんだよ、おっちゃん!ちょっと店の商品見てもいいかな?」

森田「あぁ、いいよ!ゆっくり見な!そちらのお嬢さんも狭い店だけどゆっくりしていきな!」

栗間「へぇー、中も凄い素敵な昭和レトロな雰囲気だわねぇ!」

山田岡「栗間さん!何かに気づかないかい?」

栗間「んー、種類は豊富みたいだけど、何かしら?
あっ、、、、」

山田岡「そう!この店はこっちゃん食品工業の駄菓子しか置いてないこっちゃん専門の駄菓子屋なんだ。」

栗間「すごーい!こっちゃんの商品てこんなにあるのね?!」

森田「なんてこたない店だよ、浩三という自分の名前で縛って、こっちゃんの商品しか扱わないなんてことをやり続けて、気がつきゃもう40年たっちまった。」

栗間「こっちゃんだけで40年!?」

山田岡「おっ、あったあった!」

森田「中でも一番の人気は今、次郎くんが手にしたサバサバしてんじゃないわよ!だね!ピリッとした味わいの中にも旨味のあるお菓子で、大人にも子どもにも人気の商品だよ。」

山田岡「おっちゃん、これ箱で買っていいかな?」

森田「いいとも、あんまりいっぱい食べ過ぎて舌がピリピリ痛くならないように注意しなよ!でも、サバサバしてんじゃないわよ!って名前も今でこそ当たり前だけど、発売当初はびっくりしたもんだよ。」

山田岡「確かにインパクトのある名前だよなぁ。んー、サバサバかぁ、サバ、サバ、、、、、はっ!」

栗間「うーん、駄菓子だけど、これだけピリッとして美味しいとお酒のツマミにもなるわね。、、山田岡さん?どうしたの?」

山田岡「なるほど、だからその人は!?おっちゃんありがとう、請求書は南北新聞文化部宛で出しといてよ!栗間さん行こうか!」

栗間「行こうかってどこに?どうしたの?あっ、お邪魔しました!」

森田「暗いから気をつけて帰るんだよー!」

(1週間後、私たちは森田さんのこっちゃん専門の駄菓子屋さんに片山さん、そして高松警部を呼びました。そして、)

片山「山田岡さん、栗間さんどうしたんです?駄菓子屋さんに呼んで」

高松「そうだよ、山田岡の旦那、駄菓子屋なら他にもあるってのに、」

山田岡「ここはこっちゃん専門の駄菓子屋なんです。そして数あるこっちゃんの駄菓子の中でも、一番人気なのがこのサバサバしてんじゃないわよ!です!」

片山「サバサバしてんじゃないわよ!、、山田岡さん、一体何だってんです!?」

山田岡「片山さん、あなたの元婚約者、愛美さんはあなたの前から姿を消す前日の日に、この駄菓子を食べている時、目がウルっとして寂しそうな表情を浮かべたんですよね!」

片山「、、、ええ、そうですけど、それがどうしたんですか?」

山田岡「、、、、愛美さん、入って来てください!」

愛美(ガラガラガラガラ)

片山「ま、愛美っ!!」

高松「っ!!何でここに!」

山田岡「愛美さんは、片山さん、あなたの元から突然姿を消しましたが、今日まであなたのことを一度たりとも忘れてはいませんでした。私の友人にサバ料理屋をやっているヤツがいて、そいつ経由でありとあらゆる方法を駆使して愛美さんを探しました。そして、愛美さんの涙の理由もおそらく片山さんなら理解してくれるだろうと説得して、今日この場に呼びました。」

片山「涙の理由?!愛美、一体どういうことだ?
何故、何故あの時僕の前からいなくなったんだ!」

愛美「、、、私は、サバが大好きな女だったわ!今も毎日サバを何らかの形で食べているわ!あなたと一緒にいた時は、大好きなサバを食べて、大好きなあなたとサバを食べることができて本当に楽しかった。
でも、私、毎回サバを食べる度に心が苦しくなったの!」

片山「心が苦しい?どうしたんだい?僕に何か原因があったのかい?」

愛美「あなたのその真っ直ぐな瞳よ!、、、最初に出会った時は、まだお互いをよく知らないから、私つい、嘘をついて年齢を偽ってたの!」

片山「えっ!」

山田岡「一般的に男性は年齢の若い女性を好むということが総務省のデータでも出ています。あなたと出会った時に愛美さんは、つい年齢を若く偽ってあなたに報告したそうです。」

愛美「私にあなたの前でサバを食べる資格なんてないの!、、私は本当はあなたより5つも年上の、サバ読み女なのよ!、、、サバサバしてんじゃないわよ!を食べている私が、そんな私が最もサバサバしてたのよ!うっ、ううっ、でもいえなかった!言えばあなたは若い子に行ってしまうかと思って、あなたの真っ直ぐな瞳を見ると言えなかったの!」

高松「それで、片山の前から去っていったってわけか、、」

片山「、、、、、つらい想いをさせてごめんね、愛美!でも、僕もまだ君に伝えてないことがあるよ!」

愛美「えっ!」

片山「総務省だか、早漏症だか、なんだか知らないが、そんなデータ何の当てにもなりゃしない!むしろ僕にとっては5つ上なんて大歓迎さ!
僕ぁ、根っからの年上好きだからね!」

愛美「よしおさん!こんな私を許してくれるの?」

片山「許すも何も、むしろ好都合さ!ありがとう!君が年上で本当に良かったよ!良かったら、僕のサバ丼、そしてサバサバしてんじゃないわよ丼を食べてくれるかい?永遠に僕のそばで」

愛美「(、、、シクシク、)い、いただきます!」

栗間「山田岡さん!そういうことだったのね!でも何でサバを読んでることは分かっても、片山さんが年上好きってわかったの!?」

山田岡「男には分かるのさ、同じジャンルを好きな人間の1人や2人、なぁ、高松警部」

高松「お、おう、でも良かったぁ。片山の野郎、今度こそ幸せになれよ!うぐっ、うぐっ」

栗間「同じジャンルを好きな、、、てことは山田岡さんも年上が、えーっ!」

山田岡「高松警部、今度ばかりはアンタもサバけない事件だったんじゃないかい?」

高松「ふんっ!お、俺ぁ、裁判官ではないからサバくのは専門外よ!でも、片山のヤツいい顔してやがるぜぇ」

山田岡「サバを読まれたくらいじゃ、愛ってやつはビクともしないってことさ。サバサバしてんじゃないわよ!って言われてもたまにはサバサバしてもいいんじゃないだろうか!」

森田「どうしたんじゃい?お嬢ちゃん、ふくれっ面で!」

栗間「べ、別にふくれてなんかいないですよ!」

山田岡「どうしたんだい?君もまさかサバ読んでたのかい?」

(ゴツッ)

山田岡「い、いってぇー!」

終わり




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