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《読書記録》かつて若さの第一線にいた大人たちに@菩提樹荘の殺人/有栖川有栖

こんにちは、サバトラです。

読書記録の第1冊目は何か思い入れのある本を、、とも思ったのですが、無駄に手が止まるくらいなら読み終わったものから書いてしまおうということで、とにかく書こうと思います。

作家アリスシリーズ20作目のテーマは若さ

作者と同名の推理小説作家の有栖川有栖が探偵の助手役として登場します。探偵役は有栖の学生時代からの友人である大学准教授の火村英生です。火村は犯罪社会学を研究しており、その知見を買われて警察の殺人事件の調査に度々協力しています。そのため、基本的には事件発生後に警察から連絡が来るという流れですが、名探偵コナン方式で休暇などに殺人事件に巻き込まれる場合もあります。

今回の菩提樹荘の殺人は表題作を含む4篇がまとめられています。共通するテーマは「若さ」です。犯人が未成年だったり、火村の学生時代の話だったり、同じテーマとはいえボリュームや方向性が様々なので1冊で結構楽しめると思います。

若さとは謎の全能感と圧倒的孤独感

私は10代の頃、謎の全能感に満ち溢れていました。更には拗らせすぎた全能感の副作用なのか時折巨大な孤独感に押し潰されそうな感覚に襲われて途方に暮れていたように思います。

当時は今よりもずっとナンパや怪しげな勧誘などにも声をかけられていましたが、相手を睨みつけ「キモい」と足蹴にし、時にはまるで見えていないかのように素通りもしました。
親や教師など大人を見下し、友達や彼氏を心の底で馬鹿にして鼻で笑ったりもしました。

そして「どいつもこいつも、、誰も私のことをわかってくれない。結局自分は孤独だ」なんて絶望していました。

当時はそんな心の揺らぎを悟られまいと常にピンと張り詰めていたように思います。

若さってこういう危うさや脆さを孕んでいるところがあって、今回の作品にもこれらのエッセンスが散りばめられています。
特に「アポロンのナイフ」と「探偵、青の時代」ではいいスパイスになっていて、ほのかに胸がキューッとします。

かつて若さの第一線にいた大人たちに

青春のキュンとくる感じにどっぷり浸りたい方には物足りないと思いますが、ほんのちょっとあの頃を掘り返したいような、ちょっと怖いようなそんな大人たちにおすすめです。

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