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免許、そして気持ち悪さについて

免許を、やっと取った。まだ実技試験が必要ではあるけれど、免許を持っている成人を助手席に乗せていれば運転可能な状態にはなった。
春先まで日本の免許センターで発行してもらった国際免許というやつがあったのだが、一年が有効期限なのと、こちらに在住する場合やはり現地の免許を取らないといけない。でもTAを始める今年度までSSN (Social Security Number) がなかった私は (それは割と生活面が色々かなり不便) 一年経ってやっとテストに申し込めた。

免許は発行元が州なので、テストの内容には州によって違う部分があると思うが、アイオワの場合まずびっくりしたのは免許の種類がやたらと多いことである。日本の感じで普通免許の種類はあってもATかMTの二種類くらいだろうと思っていたのだが、DOT (Iowa Department of Transportation)のサイトを見ると、多分普通免許に該当するのはClass Cとついているやつなのだが、なんだか色々ある。多分、未成年でも車を運転しないと学校や仕事に行けないケースがここでは結構あるから、それ用のライセンスを用意しているように見えた。座学をパスした状態の日本で言うところの仮免許に当たる状態でも一応免許の1カテゴリとして設定されているあたりに、この地における車のインフラ具合が投影されている。

(ちなみに普通自動車のMT車はそもそもアメリカに基本無いのかもしれない。そういう免許枠自体がなかった。個人的にはもちろんATの方が遥かに便利なのはそうなのだけど、MT車のガチャガチャ運転する感じも楽しかったので、あるならMT車で受けてみようかなと思っていたので少し残念だった。)

日本で免許を取ったのは2、3年くらい前なので (仕事を(かなり無理やり)納めて高校生や大学生に混じって年末を自動車学校で過ごした)、この感じはまぁまぁまだ覚えているぞ、という心持ちだった。
一応、ここは暗記ポイントみたいなのある?と彼に聞いてみたのだが、いや免許そのままトランスファーできるからここで試験受けてないんだよねぇ、と言われてしまった。まぁ確かに韓国はアメリカと同じ右側通行だ。イギリスを手本にした"我が国"の近代化に文句を垂れるしかない。

勉強自体はDOTのサイトで練習問題が解けるので、引っかかった所だけピックして免許マニュアルで復習しておけばすぐである。まぁ旅行でアメリカに来てレンタカーを借りる人は結構いるだろうから、赤信号でも右折できるとか、スクールバスを見たらだいたい停まるとかいうことは有名だろうと思う。それ以外のところだと、標識の色と種類は日本と違う(というか日本に無いものが結構ある) ので、目を通した方がいいと思った。

座学はコンピューター試験で15分程度で、受けるスロットを事前にネットで予約する。(首都であっても昭和か?と言う感じのボロセンターに朝から長蛇の列を作って並びボロ机で紙と鉛筆で試験を受ける2020年代の日本とはエライ違いである。)
前日にQRコードが届くので、それを当日は入り口でスキャンすれば番号を発行され、あとは呼ばれるまで順番を待つだけである。

ここまでの手続きはいたくモダンで効率的で非常にわかりやすかったのでかなり印象は良かったのだが、この先がいただけなかった。

番号を呼ばれて行った先の窓口の中年の白人男性が、非常によくなかった。
まず開口一番のセリフが、早送りのテープみたいな速度でこちらを見ないままの「用は何」だった。あまりに無愛想なトーンで突然捲し立てられたので、若干面食らいながら「え、予約した通り座学の試験受けに来ましたけど」と返したところ、また早送りのテープで何かを捲し立てられた。
聞き取れなかったので、なんですか?と若干不快な表情で返したところ、明らかに苛立ちが見て取れる様子で不自然な強調をしながらゆっくりと「I、D、を、みせろ、って、言ってるの。学生?I-20、出して」と言われた。
完全にこれはアジア系、特に東アジア系がキライな人だなと思ったが、まぁ苛立ってもしょうがないので感情を無にして答える:「私J1なんで、DS-2019を見せるのでいいですか?」

アメリカのビザ制度の文脈について少し補足すると、一般的な留学の場合のビザがF1というやつで、J1は交流者ビザと言われるものなので結構レアになる。私が去年アイオワ大学に来たときは、国際学生を対象にしたオリエンテーションでビザに関するセッションもあったのだが、J1の部屋に来ていたのは片手で数えられるほどしかいなかった。

ビザの種類を聞いた彼は若干眉を上げ、J1? と言い、若干トーンが丸くなった声で、yes, DS-2019見せて、と言ってきた。
無の感情のまま見せる。ちなみにそのDS-2019というJ1ビザ書類には、ビザスポンサー、私の場合はフルブライトで来ているのでアメリカ国務省がスポンサーになっている、と書いてある。
しばらく書類を見たあと、ID出して、と言われたのでパスポートも渡した。
途端に、「Oh! Japanese!」である。完全にこの後、態度が丸くなった。
私の気分は、最悪である。

過去にも同じようなことが、イギリスであった。ヒースローのTax Freeで買い物をしていた時だったと思う。ブラックのおっさんだったと思うが、今回と同じような、一瞬であぁこの人はアジア系嫌いなんだろうな、とわかる態度だった。でも、IDを見せた他途端「Oh Japanese!」で、手のひら返しである。

私の気持ち悪さは、もちろん一義的には「人種」に基づく偏見とそれに基づくレイシストな態度をトリガーとするものではあるのだけれど、加えて同じ「人種」の中でも更にステータス・ヒエラルキーが異なるラベリングがされているという事実に酷くダメージを食らったのだと思う。そしてその特定のラベリング文脈において、私がカテゴライズされた ー されるグループが、不可分な私の中にそれでもどうしようもなく解けることができずに存在している種類の私とあまりにも相いれなくて、というよりその存在を無とみなされ法的な定義に基づく集団の中に完全に分類され取り扱われるという行為から受ける魂レベルの抑圧感、無力感、背徳感、罪悪感…そういうものが入り混じって、押し寄せる。それが、私が痛烈に感じる「気持ち悪さ」の正体なのだと思う。

***

免許を発行した後彼は、これがどうworkするか知ってる?制度わかってる?と聞いてきたので、仮免許でしょう、実技試験を受けたら本免許になるんだよね、と言い、実技試験の予約はできる?まで言おうとした。のだが、彼に遮られた。
彼はたしなめるような顔をしながら、そんな焦らないでちゃんと練習して、受かる状態になってから来てよ、と言い、締めくくった。

まぁ、国際免許を持っていてアメリカで運転したことは (アイオワに限らず) 結構あって、ってことは彼の想像の範囲外だろうしなと思いながら、別に今日予約しなくてもいいか、とそのまま帰ったのだった。

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