なぜこんなに労働は辛いのか?「社会不適合者」のための労働観の歴史
こんにちは、みねるばです。
今回は労働観についてのツイートまとめです。
ツイートまとめ:なぜこんなに労働は辛いのか?
前回は時間の歴史についてでしたが、
今日は労働観がどのように変遷してきたか、
その歴史について話します。
現在は働いている人が正しくて、
無職は蔑まれることが多いのですが、
これも歴史上ずっとそうだったわけではありません。
むしろ逆の時代の方が長いぐらいです。
例えば、今の西洋文明の始まりと言われる
2500年前の古代ギリシャでは、
労働は人間にとって最も大切な自由を
奪うものなので、極めて嫌悪されていました。
なので、労働は奴隷に押しつけ、
市民は自由な活動を行います。
ワークライフバランスの内、
ライフに全振りする社会でした。
その結果どうなったか?
文化や学問が爆発的な勢いで発展しました。
今ある学問のほとんどが古代ギリシャ発です。
政治学politicsはギリシャの都市ポリスを考える学問、
哲学philosophyは古代ギリシャ語で知を愛するという意味です。
まるで生きているかのような精巧な彫刻や
壮大なパルテノン神殿が建てられ、
この時期に作られた悲劇を超えるものは、
シェイクスピアぐらいとも言われます。
哲学者プラトン、アリストテレスを超える哲学者は2500年経った今でも出てきていません。
それらはたかだか人口4万人の
アテナイで起きたことです。
では、中世の労働観はどうか?
やはり労働は嫌悪され、
卑しい者がすることとされていました。
貴族は身銭を稼ぐことはせず、
古代ギリシャ・ローマの古典を学び、
自由な思索や精神的な活動に携わりました。
基本的に大きな発見や発明は、
非労働者の側から生まれています。
庶民にとっても労働は、疎(うと)ましいもので、
できれば無しで済ませたいものでした。
そもそも聖書の中には、
「金持ちが天国へ行くのは、
らくだが針の穴を通るより難しい」
という記述があり、金持ちになるために
せっせと働くなんて地獄行き直行便で、
非常に蔑まれました。
今と真逆ですね。
この世界では、資本主義や産業革命が
生じる余地は全くありません。
ですが、そんな世界を一変させる出来事がありました。
それが宗教改革です。
詳しい話は省きますが、新教 プロテスタントの中から
重要な考え方が生まれます。
それが天職です。
職業は神によって与えられたものという意味です。
そのため、人々の労働観が激変します。
労働というのは素晴らしいもので、
だからこそ勤勉に働くようになりました。
実は資本主義化と産業革命に成功した国は、
ほとんどこちら側で、イギリスもアメリカも
ドイツもプロテスタント国家です。
一方、仕事のやる気がないと言われる
イタリアやスペイン等の南欧は、
旧教 カトリック国がほとんどです。
では、日本はどうか?
江戸時代の武士は非労働者階級でした。
勤務時間は職種にもよりますが、
例えば老中は出勤(登城)が午前10時ぐらいで、
退勤が午後2時ぐらい。
せいぜい4時間労働です。
一般武士も労働時間4~6時間程度が多かったです。
庶民も前にも話した通り時間感覚は適当で、
多くの仕事は日が沈んだら終わりです。
日本に来た外国人は、
「日本人は歌を歌いながら仕事をやっていて、
まるで遊んでいるみたいだ。
時間の無駄遣いすぎでは?」
などと記録に残しています。
また、士農工商という言葉がありますが、
工と商の間にはあまりに深く暗い溝がありました。
日本人のお金儲けに対する嫌悪感は凄まじく、
働いて金持ちになろうとする商人を
忌み嫌う人は多いものでした。
今でもお寺のおさい銭箱には浄財と書かれていますが、
お金は穢(けが)れているという発想なのですね。
そのため、画期的な商業政策を行おうとした
田沼意次はすぐさま非難の的になり、
子供はテロで殺され、失脚させられています。
ですが、そんな世界を一変させた出来事があります。
それが明治維新です。
明治政府は、西洋のプロテスタント国を手本にし、
資本主義化と産業革命を急ぎました。
そして始まるのが義務教育です。
各地に二宮金次郎像が立てられ、
勤勉に働く人が正しくて、
働かない奴はゴミというプロパガンダ教育が
徹底されました。
(それでも高等遊民みたいな人は沢山いましたが)
こうした政策は他の非西洋国でも行われたのですが、
日本以外ほぼ失敗し、なぜか日本だけが成功しました。
日本は勤勉労働モデルに適合、というより過適合し、
猛烈な勢いで働き始めました。
アメリカへ移住した日本人はプロテスタントより
勤勉に働き、現地民の仕事を奪い始めたので、
悲惨な迫害も発生しています。
そして、労働時間が極端に伸びました。
女工の15時間労働はざらです。
労働時間は平気で3~4倍になりました。
非プロテスタント国なら、
労働者は皆脱走しておしまいですが、
日本は多くの犠牲を出しながらも、
ブラック労働を続けてしまいました。
なぜ非プロテスタント国家なのにこんなにも働き、
近代化も成功したのかは、諸説はありますが、
歴史の謎です。
ともあれ、勤勉に働くことが絶対という労働観が
どんどん日本全土を覆っていき、
高等遊民も淘汰し尽くされ、
現在の労働が勝利した世界に
生きているというわけです。
ですが、労働が絶対という今の世界の方が、
長い歴史からすると圧倒的な少数派です。
そして、プロテスタント国家も
「あれ、労働ってやっぱりダメじゃない・・・?」
と今では労働を制限する方向になっています。
過去に激変してきた労働観は、
今後も変わっていくことになるでしょう。
そのため、たとえ今の社会に適合できなくても、
他の時代の人から見れば、
「え、むしろ適合してる方がおかしいんじゃ・・・」
と思うのかも知れません。
現代社会に追い詰められた時、
歴史という視点を持つと見え方が変わり、
心の支えとなることがあります。
そこが歴史の良いところなのかもしれません。
みねるばおすすめの関連本
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)
宗教改革によって人々の労働観がどのように変わり、そこからどのように今の資本主義が生まれたのかを論証しています。記事のような話を知りたければ、この本をおすすめ・・・いや、できない。
ウェーバーは悪文家で有名でめちゃくちゃ難しく、読むことは全くおすすめできません。それなのに社会学でも経済学でも哲学でも政治学でも絶対に外すことはできない学者なので、社会科学系の大学生は悲鳴を上げながら読まざるを得ません。(トラウマが蘇る)
原典に入る前に入門書や概説書がおすすめです。
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (Audible版)
読書が苦手な人は、Audibleを利用するといいと思います。これは本の朗読を聞けるamazonのサービスで、通常は初回1ヶ月無料体験のところ、現在はキャンペーンで2カ月無料です。
この本を寝る前にAudibleで聞けば、勉強になるか、安眠が得られます。
マックス・ウェーバーを読む (講談社現代新書)
上記の話を比較的わかりやすく知りたい方は、こちらの本の「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の章を読むといいと思います。それでも専門外の方は結構苦労すると思いますが・・・
日本その日その日 (講談社学術文庫)
お雇い外国人のモースの日記です。外国人から見た日本人の姿が描かれています。歌いながら仕事をする人や、発掘につれて行った人達が目を輝かせながらモースを質問攻めにするなど、楽しそうに働く日本人が沢山出てきます。今とは全く違った風景です。こちらは抜粋版。
日本その日その日 1 (平凡社)
こちらは全て載っている版ですが、全3巻で大変長いです。講談社学術文庫を読んで面白かったら、こちらで深堀りしていくといいと思います。
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