「イメチェンすれば人生は変わるのか問題」を考える映画『ビルド・ア・ガール』
18歳の頃、自分を変えようとした。
髪をバッサリと切り、強めのパーマをかけ、アニーみたいな髪型にして「パワフルに生きよう」としてみた。
なぜなら、高校生の頃のわたしは、「お嬢様っぽい」と言われることが多かったから、そのイメージを一新したかったのだ。
だって、わたしの中身は、「下町のおっさん」なのだから。
なのに、周囲のひとたちから「お嬢様」を要求されてしまう。
ちらっとでも「おっさん」の部分を出すとドン引きされてしまった。
その頃は、「ひとから好かれたい!」と死ぬほど願っていた。
人から好かれれば万事うまくいくと心底信じ込んでいた。
だから、できるだけ「お嬢様」に外見を近寄らせて、中身もそうあろうとしてしまった。
そうすると、男性たちが褒めてくれたからだ。
どんな理由であれ、ひとから褒められることにわたしは弱い。
でも、わたしの中の「下町のおっさん」は、いつも「おっさんとして正々堂々と生きろよ。」とダミ声で叫びながら、ワンカップを片手にクダを巻いていた。
だから、高校を卒業して、「アフロヘアっぽくしよう」としてみた。
お嬢様からアフロ。
極端なイメージチェンジである。
しかし、イメチェンというのは、なかなか思い通りにはいかないものだ。
結局、短髪のソバージュっぽい髪型になり、アニーのアフロっぽいイメージには近づかなかった。
そばかすを顔に描いてみたが、そのまま外出する勇気はなかった。
中途半端なイメチェンだったからなのか、当初の目的である「これからはパワフルに生きよう」というビジョンもなかなかうまくいかない。
18歳の頃から、自分の本来の姿が迷子になってしまった。
そのうち、愛しい「下町のおっさん」は、失踪してしまった。
周囲の求める自分と、本来の自分のギャップの高低差に一番惑わされたのが自分自身だった。
たどり着いた結果が、本来の自分を隠し、無表情で平坦に生きるという答えだった。
しかし、これもまた破綻を迎える。
こんな生き方は、苦しくて苦しくてたまらなくなってしまうのだ。
そのストレスは、身体に影響を及ぼすことになる。
今、振り返ってみると、外見をいくら変えても、自分の本質というのは変えられない……かもしれないと思う。
『ビルド・ア・ガール』の主人公ジョアンナも、イケてる音楽評論家に変身するために、髪をピンク色に染め、派手なメイクをして、奇抜な服装にイメージチェンジしている。
一時は成功しているように見えるけど、実はそうではないということに彼女も気づく。外見はある程度変えられるのだけど、その人の本質はそう簡単には変えられない。
もし、いま「傷つかないために、本来の自分を抑えて生きている」という人が、この文章を読んでくれているとしたら、伝えたいことがある。
ジョアンナも言っていたけど、
「文章を書くってことは、それを瓶にいれて、世の中という海にながすようなもの。」
だから、このメッセージ・イン・ア・ボトルが、あなたに届けと思う。
「人生は、スクラップ・アンド・ビルド。それの繰り返し。挑戦しては失敗し、新たな自分になる。それが前進する方法なのだ」
このボトルを拾った人は、ぜひこのメッセージについて考えてみてほしい。
ちなみに、失踪した「下町のおっさん」は、40代になったころ、わたしのもとに戻ってきた。
愛しい「下町のおっさん」は、いま、わたしの心の中で同居している。
おっさんをどの程度外に出していくのか、TPOを考えるべきなのか、など、その都度おっさんに相談しながら暮らしている。
これが、けっこう楽しい。
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