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コミュニティマーケティングの「はじめの一歩」は何から? CMC Meetup Tokyo#27リポート

2023年9月、コミュニティマーケティングについて考える非営利のコミュニティ「CMC_Meetup」の第27回ミートアップが開催されました。ビジネスコミュニティの立ち上げや運営などに興味関心がある人なら誰でも参加でき、コミュニティーマーケティングに関する知見やノウハウをリアルの場で共有するイベントです。

今回は「『はじめの一歩』」どうするの?」がテーマ。コミュニティマーケティングの支援やサービス開発を行っているKEENの代表取締役 Founder & CEOであり、CMC Meetupのコミュニティの一員でもある小倉一葉さんを迎えてのトークセッションと、CMC Meetup運営メンバーが壁役になっての壁打ちセッションの模様をお伝えします。


コミュニティマネージャーに必要な「3つの視点」とは

最初のトークセッションでは、コミュニティマネージャーとしての小倉さん自身の経験から、コミュニティマネージャーを始めるときに持っていれば良かったと思うところについて話してくれました。

聞き手となったのは、CMC Meetup運営メンバーで現役コミュニティマネージャーでもあるウイングアーク1stの河村雅代さん(マーケティング本部 nest企画室室長)とアドビの松井真理子さん(DXインターナショナルマーケティング部フィールドマーケティングマネージャー)。

小倉一葉さん(KEEN株式会社 代表取締役 Founder & CEO)

小倉さんは日本マイクロソフト株式会社でコミュニティマーケティングに従事した経験をもとに、2019年に独立創業。現在は、コミュニティマーケティングに取り組む企業の支援や、活用ツールの開発を行うKEENの代表取締役Founder &CEOを務めています。

小倉さんは長くコミュニティマーケティングに関わってきましたが、コミュニティが効果的に機能し、事業貢献できるよう適切に設計し運営していくためには、「経営者視点がないと難しい」と言います。小倉さん自身も、そうした視点を獲得できたのは「起業して3年くらい経ってから」だったそうです。

その経験から、コミュニティマーケティングに従事する人々に向けた「はじめの一歩」として、「鳥の目、虫の目、魚の目」という3つの視点を持つことの重要性について話しました。

「鳥の目」は、事業責任者の目線から会社の事業課題を捉え、コミュニティへの期待、求める価値を考え整理するという、全体を俯瞰で見る力。コミュニティのなかに入って、何が起きているのか情報を分析して、日々の施策を実行するミクロな視点が「虫の目」。

お客様や新しいお客様の候補になる方の目線を持ちながらコミュニティを計画、実行するのが「魚の目」だそうです。

コミュニティマネージャーとなる人が、どの視点を持っているかは、その個人のタイプによっても変わってきます。ただ、全てを持つことは難しいので、少なくとも「今の自分」がどの視点を持っているか把握するために、「自分に問いかけていただきたい」と小倉さんは話しました。

そして、こうした担当者のタイプとは別に、企業側がコミュニティマーケティングに何を期待し、どれほどコミットしていくかも大きな要素です。小倉さんは、こうしたいくつもの要素の掛け合わせによって担当者自身と自社の現在地を把握し、他社の取り組みとの比較によって自分たちがやるべきこと、そのために必要なことなどが整理できると言います。

その手助けになるものとして、小倉さん自身が考案したセルフチェックシートを挙げました。これは、自身のマネジメント経験、予算、社内で協力してもらえるメンバー、経営層の理解、プロダクトのステータスについて、「未経験」「多少ある」「ある」の3段階で評価することで、「as is(現在の姿)」が明確になり、「to-be(あるべき姿)」が見えてくるものです。

小倉さんは「自分が今どんな状況に置かれているのかを整理した上で、例えば事業責任者やチームの方々に、このように協力してほしいということが、具体的に見れるようになる」と話しました。

また、米国のコミュニティマーケティングについてのカンファレンスである「CMX」が公開したレポート「The 2023 Community Industry Trends Report」についても紹介されました。この中では、コミュニティが事業に貢献することの認知が高まり、タスクごとに専任を置くなど企業側も人材の手当を行うようになってきているといったファクトが示され、これを持って小倉さんもコミュニティマーケティングの将来性を強く訴えます。

そして最後にまとめとして、小倉さんがコミュニティマーケティングに取り組む人に必要だと考える、「鳥の目、虫の目、魚の目」は、すなわち「現状を分析する力、戦略を立てていく力、そして推進力」だと整理。

その上で「できないこと、なれないものを目指す必要はない。コミュニティのゴールを目指す中で、自分がどんなキャラクターとしてアプローチできるのかを考えていけば良い」と話し、自分の強みと課題を知った上で、足りない部分を補うための成長に向けた努力や、チームとして分担するといったことの大切さを強調されました。

コミュニティマネージャー同士の「生の声」

イベントの後半は、会場からの質問に対して現役コミュニティマネージャーである運営メンバーが直接答える「壁打ち」セッション。会場からはいま直面する悩みが、壇上からは実際の経験に基づく生きた回答がやり取りされていました。

壁役として登壇したのは、CMC Meetup主宰の小島英揮さん、小倉さんのトークセッションでは聞き役を務めた河村さんと松井さん、さらにCMC Meetup運営メンバーでカオナビの坪井友里さん(カスタマーマーケティンググループ)とAsana Japanの長橋明子さん(コミュニティ・マーケティング・プログラム・マネージャー)。

1つ目の質問は「コミュニティをきっかけにしてお客様になった人のトラッキング方法はどんなのがあるか?」というもの。これに対して松井さんから「すべての情報をSFAやMAといったプラットフォームに入れ、アクティビティを一元管理している」と回答がありました。

「コミュニティやイベントなどのアクティビティがあった後に商談ができたかはファーストタッチ、商談の後にアクティビティが紐付いたらマルチタッチという考えで、コミュニティ活動がどれだけ商談に貢献しているかを見るためにすべてプラットフォームに記録しています」

これに対して、小島さんは「コミュニティは数字が全てではないが、数字で説明できるならあった方が絶対良い」と賛同しました。

2つ目の質問は「コミュニティの自走化」というシンプルなもの。

これに対して小島さんは「書籍で『自走すると良い』と書いてしまったために呪縛になっている」と自省しつつ、これまで小島さんが立ち上げてきたコミュニティでも自走しているものばかりではないと明かしました。

例えば、一定以上の規模の企業のエグゼクティブを対象にした「E-JAWS(エンタープライズ日本AWSユーザーグループ)」は、基本的にベンダーが運営しており、自走しているとは言えませんが、運営メンバーの長橋さんは「(E-JAWSの参加者は)大企業の情報システムの部長クラス以上が対象なので、もっと大事な仕事がある」と解説。「自走していないからといって参加者がコミットしていないわけではなく、当事者意識を持って参加している」と現状を話しました。

さらに長橋さんは「自走という言葉と、自分ごと化がごっちゃになっているケースがある。自走するのは、自分ごと化された後のこと」と指摘。他の運営メンバーからも「自走は求めない」「発想して、意見を出してくれることが大事」という趣旨の発言が続きました。

3つめには「後進育成について取り組まれていることはあるか」との質問。

コミュニティマネージャーは、まだ新しい職能のため、企業内で使いやすい教育プログラムや教科書に相当するものがないそうです。これに対して、まず小島さんから「CMC Meetupはすごく良い場」と主宰者の立場から話しました。

さらに、坪井さんからは「コミュニティの目的、向かっている方向を共有することがすごく大事」、河村さんから「お客様とのコミュニケーション、会話スキルを持っていないと、いろいろなところに支障が出る」、松井さんと長橋さんからは「コミュニティをやる商材やソリューションが好きか」といった、コミュニティマネージャーに求められる資質についてのコメントがありました。

4つめは「目的やビジョンをどうやってコミュニティに浸透させていけば良いか」という質問。

小島さんは「コミュニティのあり方の根本にも関わる悩みの深い質問」とコメントしました。続いて長橋さんは「まずは、こういうコミュニティーですって言って、良いねって思った人に入ってもらう」とアドバイス。河村さんは「ファーストピンになった方々へのインプットがすごく重要だった」と自身の経験に基づいた回答を示しました。

これらの回答を踏まえて小島さんは「マーケティングの基本は、全員を相手にしないこと。コミュニティの全員に分かってもらうことは最後のゴールだけど、どの順番でリレーしていくと皆が納得するのかを絵に描いてみることが必要」と全体像を示しました。そのために必要なこととして「始めに話さなければいけない人は5人くらい。その5人を正しくセレクトすることが大切」とまとめました。

そして、最後は「コミュニティ立ち上げの最初の5人とかのメンバーの見極め方」という、4つめにつながる形での質問でした。これに対して、壁役の4名から次のような回答がありました。

「弊社ではお客様にはカスタマーサクセスマネージャーが必ず付いているので、どの人が良さそうかカスタマーサクセスマネージャーにヒアリングします。もう1つ、こうしたイベントを開催して、そこでいろんな方とお話しすることを実施しています。そうすると、製品愛があるかどうかだいたい分かります」(松井さん)

「弊社の場合、1~2年前に『どういう人を巻き込みたいのか』という人物像を、プレゼンテーションが非常に上手とか、SNSで発信力があるといった項目を書き出して、ペルソナを作りました」(河村さん)

「製品愛やコミュニティ活動への愛がある人。そういう人をユーザー会やイベント参加者の中から募って、どのようなコミュニティ活動を実施したいのか意見を募ります。」(坪井さん)

「以前の会社では『事例になってくれるお客さんはコミュニティリーダーの母集団』という仮説を立てて、アプローチしました。熱量が高い方はやっぱり事例にも出てくれやすい。もう1つは、製品の活用度合いが飛び抜けている人は何かがあるので、ともかく話を聞きに行く。コミュニティ活動するタイプじゃない場合もあるけど、それはそれで良いインサイトが得られます」(長橋さん)

以上でイベントは終了となりましたが、その後も会場では運営メンバーに直接質問をする方、参加者同士でディスカッションする方の熱気が、いつまでも残っていました。

コミュニティマーケティングはB2BからB2Cまで、また外部だけでなく企業内部のコミュニティといった幅広い領域で取り入れられつつあります。そうした急拡大期だからこそ、参加者も大きな熱量を持っていることが強く感じられるイベントでした。

前回のイベントの様子はこちら


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