
積極的行動が信頼を育む - 心理的安全性構築のためのメカニズムを解説【心理的安全性QA 第2回】
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授の研究を基盤に、本連載では心理的安全性の本質と実践的応用を探求してきました。
前回は、読者の皆様からの質問に応える形で、心理的安全性を促進するオープンなリーダーシップの具体的な行動指針について議論しました。
今回の心理的安全性Q&A第二回では、以前の記事「心理的安全性を効果的に職場に導入する際の留意点」で言及した重要な概念、「積極的な行動が信頼につながる」というテーマに焦点を当てます。
この原理がなぜ、そしてどのように組織の信頼構築に寄与するのか?という読者からの洞察に富んだ質問に答えていきます。
積極的行動と信頼の相互強化サイクル
松村憲:実際、多くの方が、積極的に意見を表明することで自己信頼と他者への信頼という2種類の信頼が高まる、という経験をされたことがあるのではないでしょうか。
しかし、なぜ積極的な言動が信頼につながるのか?この現象の背後にあるメカニズムは何でしょうか?
今回は、この信頼構築プロセスの根底にある心理学的・組織的要因を詳細に分析していきます。
◼︎ 心理的安全性が高い職場の特徴
まずは、心理的安全性が十分に確立された組織ではどのような特徴があるのか?を簡単におさらいしましょう。
具体的には
建設的な意見交換:否定的な反応よりも、建設的なフィードバックが優先される
イノベーションの奨励:新しいアイデアやアプローチへのチャレンジが歓迎される
プロセス重視の評価:結果の良し悪しに関わらず、行動自体が適切に評価され、承認される
といった特徴が挙げられます。
◼︎ 積極的な行動を阻む心理的要因
逆に、心理的安全性が確保されていない場において、積極的な行動を起こそうと試みた場合「これで失敗したらどうなるだろう」といった思考は潜在的に誰しも浮かぶと思います。
この現象は、以前エドモンドソン教授のレビュー紹介でお話した IVT(暗黙の発言理論)とも関連しています。
こうした潜在的不安は、誰もが持っている一方で、職場において個人の積極的な行動や発言を著しく抑制する要因となり得ます。
Source : 心理的安全性研究所
信頼を生み出すメカニズム
このような背景を踏まえた上で、では、積極的な行動や発言を促すためにはどうしたらよいでしょうか?
先ほどの心理的安全性の高い組織の特徴とも一部重複しますが、以下の要素が必要だと考えます。
メンバー全員が自身の考えや行動を自由に表現できる雰囲気
結果の成否に関わらず、有意義なフィードバックが得られる仕組み
個人の存在自体が否定されない、安心感(心理的安全性)の醸成
これらの環境要因とその環境における体験によって、個人の積極的な行動が促進され、その結果、信頼が生まれます。
つまり、このような体験をすることによって自己効力感も得られ、次も「また積極的に動いてみよう」とか「自分はこう思いました」と発言することへ繋がり、好循環サイクルが回っていきます。
この循環は、人への信頼やチーム・場への信頼といった多面的な信頼を相互強化し、さらなるチーム内での率直な発言の促進と組織学習・生産性の向上も期待されます。

ビジネス現場での具体例:信頼関係の構築
小島美佳:今の松村さんの解説を伺いながら、このような好循環サイクルが起きるビジネス現場での具体例として、以下のような例を思い浮かべました。
実際、皆さんもこのような経験をお持ちではないでしょうか。
◼︎ 好き嫌いを超えた信頼関係
例えば、
・必ずしも好きではない上司や上層部が、自分の意見を積極的に聞いてくれた、そして、
・自分がおかしいと思ったことを伝えると、それなりに聞いてくれる人がいた、
といった経験はないでしょうか?
これはおそらく積極的な行動の繰り返しによって生まれた、好き嫌いを超えた「聞いてもらえる」という信頼関係と言えるでしょう。
◼︎ 小さな一歩から始まる信頼構築
つまり、必ずしも職場の心理的安全性が高くなくても、自ら小さな行動や発言を起こしていくことで、少しずつ信頼や自信につながる、そこから積極的な行動に繋がるというサイクルが回り始める、という例もあるかと思います。
このように小さな行動を起こすことから始まり、その結果、受け入れられた体験を通じて新たな可能性が開かれる、といったサイクルの重要性を改めて感じました。
まとめ
積極的な行動と信頼の関係は、相互に強化し合う循環的なプロセスを生み出すと言えます。
心理的安全性の高い環境ではこの循環がより促進されますが、たとえ心理的安全性が十分でない環境でも、個人の小さな一歩から信頼関係を築くことが可能です。
次回は、上司やリーダーだけでなく、部下側から心理的安全性を育むには?の質問にお答えしていきます。
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