【憑依された人生】
私は、幼い頃からずっと「自分が自分でない」という感覚を抱えながら生きてきた。
「誰かが私に憑依している。」
そんな思いが、心の奥底にずっとこびりついている。
日常の中でふとした瞬間、私ではない「何か」が私を支配する。そのたびに、まるで他人の人生を演じているかのような言動が飛び出してしまう。
ある時は怒り狂う父親の声が、私の喉から響き渡る。
またある時は冷徹で支配的な母親の視線が、私の目を通して突き刺さる。
さらには、毒を含んだ言葉を容赦なく浴びせる祖母が、私の唇を奪い去る。
気がつけば、私の中には数え切れないほどの「他人」が住み着いていた。彼らはいつでも私を操り、私の身体や言葉を支配していく。抵抗したいのに、どうすることもできない。ただ翻弄されるだけだった。
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誰かに認められるために、大人たちの言うことを必死で聞き入れてきた。
それが「正解」だと思っていた。
けれど、その「正解」は場所や相手によって全く異なっていた。
「これが正しい」と思って従えば、次の瞬間には別の大人から怒られる。
「あの人が悪いんだよ」と言われれば、別の場面でそれを信じたことを責められる。
私はどこにいても、たらい回しにされるような存在だった。
その場その場で、言動や性格を作り替えなければならない日々。
けれど、どんなにうまく立ち回ったつもりでも、次の場所ではその「正解」が突然、間違いに変わる。
例えば、祖母の家では「何も言わず黙って従う子」が愛されるが、父の前では「自分の意見を持たない子」が叱られる。
母の前ではそのどちらも意味をなさず、ただ母の気分によって善悪が変わった。
そんな矛盾だらけの世界で、私は無力だった。大人たちの顔色を窺い続けるうちに、
**「私は生まれた時からずっと『問題児』なんだ」**
という感覚が心に刻み込まれていった。
大人になった今でも、その記憶は私を離さない。
時々、自分の中にいる「彼ら」が目を覚まし、私を支配する。怒り狂う声、冷たいまなざし、刺すような言葉。
本当の自分はどこにいるのだろう?
鏡に映る自分の目を見ても、そこにいるのは私ではなく、彼らの姿なのかもしれない――そんな恐怖が、今でも私を取り巻いている。
それでも、私は生き続けている。
自分の中にある混乱を抱えたまま。
そしていつか、この中に埋もれた「本当の自分」を見つけ出す日を夢見ている。
どれだけ傷つき、迷っても、それだけは諦めたくないと信じているから。