トラウマを癒すためのヨガの方法と効果
トラウマ・センシティブ・ヨガ(Trauma-Sensitive Yoga, TSY)は、
トラウマや強いストレスを経験した人々のために開発された
特別なヨガ・アプローチです。
従来のヨガと比べて、トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)に
対応するために配慮された要素が、取り入れられています。
このアプローチは、心理療法の補助的なツールとしても
使用されることが多く、
とくにトラウマに特化したセラピストやヨガインストラクターが
指導を行います。
以下では、トラウマ・センシティブ・ヨガの方法と効果について、
説明します。
トラウマ・センシティブ・ヨガの方法
1.安全な環境の提供
トラウマ・センシティブ・ヨガのクラスでは、
参加者が安心して参加できるように、
とくに安全な環境を整えることが重要視されます。
これには、明るさや音、温度の調整、
そしてクラスの進行の予測可能性が含まれます。
また、個々の身体的・心理的な限界を尊重することが
強調されます。
2.指示の与え方
インストラクターは、強制的な命令を避け、
提案や選択肢を与える形で指示を行います。
たとえば、「腕を上げることを試してみてください」
といったような言葉で、参加者に選択肢とコントロール感を提供します。
これは、トラウマを経験した人々にとって、
自分の身体や行動をコントロールする感覚が
非常に重要であるためです。
3.呼吸と動きの統合
トラウマ・センシティブ・ヨガでは、呼吸と動きが柔軟に統合され、
ゆっくりとしたペースで進行します。
参加者が自分のペースで進めることができるようにし、
過度に挑戦的なポーズや動きを避けます。
呼吸のペースを自分で調整できるように促すことで、
自律神経系のバランスを整える効果が期待されます。
4.身体感覚への意識
参加者が、自分の身体感覚に注意を向けることを奨励します。
これにより、自分の身体の状態や感覚を再認識し、
トラウマによって切り離されがちな身体と心のつながりを
回復することが目的です。
5.非接触的アプローチ
トラウマ・センシティブ・ヨガでは、
インストラクターが参加者に物理的な接触を行うことは
基本的に避けられます。
身体に触れることで逆に不安や恐怖を引き起こす可能性があるため、
視覚的なガイドや口頭での指示が中心となります。
トラウマ・センシティブ・ヨガの効果
1.トラウマの解放
トラウマ・センシティブ・ヨガは、
トラウマが身体にどのように影響を与えるかを理解し、
その緊張やストレスを解放することを目的としています。
身体的な動きと呼吸を組み合わせることで、
緊張が緩和され、心と身体のバランスが回復します。
2.安全感の向上
安全な環境と選択肢の提供により、
参加者は自分自身のペースで進めることができ、
安心感を持ってクラスに参加することができます。
これにより、トラウマによって損なわれた安全感を取り戻す
手助けが期待されます。
3.自己認識とコントロール感の回復
トラウマ・センシティブ・ヨガでは、身体感覚に注意を向け、
自分自身を再認識することが促されます。
これにより、トラウマによって失われがちな
自己認識やコントロール感を回復することができます。
4.神経系のバランスの調整
ゆっくりとした呼吸と動きは、副交感神経系を活性化させ、
ストレス反応を和らげる効果があります。
これにより、心身のリラックスが促進され、
トラウマによる過剰なストレス反応が緩和されます。
5.全体的なウェルビーイングの向上
トラウマ・センシティブ・ヨガの実践は、全体的なウェルビーイングを
向上させることができるとされています。
定期的な実践により、参加者は心の安定、身体の健康、
そして自己受容を深めることができます。
まとめ
トラウマ・センシティブ・ヨガは、トラウマを経験した人々に対して、
安全かつ支援的な環境で、心身の回復を促進するために設計された、
特別なヨガアプローチです。
心と身体の統合を図り、トラウマによって引き起こされた
心身のバランスの乱れを整えることが、その主な目的です。
参考文献
デイビッド・エマーソン&エリザベス・ホッパー(2011).トラウマをヨーガで克服する.紀伊国屋書店.
デイビット・エマーソン(2023).セラピーにおけるトラウマ・センシティブ・ヨーガ.金剛出版.