おとぎ職業便覧 春の増刊号
前書き
編集の浜沫です。
今回も「御伽職業便覧」を手に取っていただきありがとうございます。
前回の第1集がご好評を頂きまして
この度、春の増刊号というコンセプトで第1.5集を刊行させて頂けました。
主に、第1集にはページの都合で載せられなかったお仕事を中心に、
どこか春を感じさせてくれるようなお仕事が多くなっています。
「時代が変わっても季節は巡ってくる。
でも、時代が変われば感じ方は変わるはず」
その変化が新しいお仕事を生むきっかけになることもあると思います。
人間の生活を支える基盤はお仕事です。
仕事や職業にあらわれる些細な機微を見逃さないように
これからも、私たちは取材を続けていきます。
編集長 浜沫 海
御伽職業便覧 第1.5集
夕凪堂
桜追っかけ隊
集団趣味照合サービス
絨毯レンタル屋
詭弁ウォッチャー
桜追っかけ隊
<業務内容>
我々は日本の南部地域から、春の全部を使って桜前線を追跡し、北上していきます。
またその活動を基に、「日本さくらマップ」を作成しています。
<桜の開花に合わせて北上していくのですね>
そうです。
例年日本の桜一番は九州地方なので、社員一同が九州に集合するところから春が始まります。その数なんと900人。
桜一番を確認した後、続々と寄せられる開花情報を受けて現地に2名ずつが派遣されます。
関東などでは桜前線の飛び地が見られるので、九州から関東へ飛行機で急行する社員もおります。
900人の社員は少しずつ分かれながら、日本全国の桜の名所に飛んでいくのです。
<桜の名所では何をするのですか?>
主要となる業務は「桜ウォッチング」になります。
桜が開花してから満開になり、やがて散っていくまで、写真と動画の撮影をしてその姿を収めていきます。
同時に我が社のHPとアプリでは、桜の開花情報を速報でお伝えしています。
そして、各地で撮影した桜の様子をほぼリアルタイムで見ることが出来ます。
私たちが提供する情報を見て、実際に現地にお越しいただいて桜をご覧になることも出来ますし、家にいながらも様々な桜の姿をご覧になることも出来ます。
<それはありがたいですね。最近は忙しくって桜を見に行けていない人も多そうですから。先ほどおっしゃられていた「日本さくらマップ」とはどのような物なのですか?>
これは我々が得た桜の情報をまとめた日本地図になります。
有名な桜スポットの隠れた一面や、皆さんがご存じでない密かな名所まで
日本中の桜に関する情報を記しています。
地図と申しておりますが、書籍版は地図だけでなく解説のページもこれでもかと載せています。WEB版でも我々が集めた過去10年分の桜の様子を無料で公開していますので、是非閲覧してみてください。
最後になりますが、桜追っかけ隊は古き良き日本の文化である桜を、現代ならではの新しい楽しみ方でこれからも愛していけるような活動を目指していきますので、是非応援よろしくお願いします。
集団趣味照合サービス
<サービス内容>
集団趣味照合サービス「フェイバリット・ミラー」は、皆さんが自身の趣味とあう友人をお探しいただくためのサービスになります。
「フェイバリット・ミラー」では、ご登録いただいた皆様に、それぞれの趣味を簡潔詳細に入力していただきます。
私ですと、「サイクリング」とか「ガンプラ」とか「京アニ」とかになる訳ですが、それを入力します。
<「ガンプラ」が僕と同じですね。でも少し意外なラインナップでした>
いいじゃないですか(笑)。
まあこのように同じグループの中で共通の趣味を持つ人がいた場合は、“○○さんもガンプラが好きみたいですよ”とお互いにお知らせする仕組みです。
その後は、直接お話しいただいてもいいですし、それが少し難しいといった場合にはサービス内のチャット機能をお使いいただくことも出来ます。
<趣味が全部みんなに知られてしまうのは、ちょっと恥ずかしいかなと思ってしまうのですが…>
その点はご安心ください。
このサービスのいい所は、共通趣味を持つ相手以外には趣味が非公開になることです。
今の世の中、趣味も多様化していますので万人に認知される必要はないと私たちは考えています。
ただ、いつの時代でも、自分の趣味を熱く語れる同じ趣味の仲間は欲しいところ。
そんな自分の鏡のような友人を探していただくために、是非「フェイバリット・ミラー」をご活用いただければと思います。
<いいですね。集団とありますが具体的にはどのような集まりを想定されていますか?>
これからの季節、新しい環境で新しく出会う人が増えると思います。
社会人であれば職場の同僚など、学生であれば新しいクラスや部活・サークルなどの皆さんで登録して、親睦を深めるきっかけにしていただければと思います。
他には、老人ホームで使用していただいたこともあります。
いくつになっても趣味に勤しめるというのはいいことですね。
我が社のサービスが、皆さまの日常の息抜きに更なる広がりを加えることこそが、我々の一番の喜びなのです。
絨毯レンタル屋
<キャッチコピー>
“季節のカーペット、お貸しします”
<業務説明>
私共の会社はですね、その季節ごとのカーペットを自分たちで製作し、
それらを皆様にレンタルしていただくサービスを提供しております。
サイズはS・M・L・LLを揃えており、それ以外の大きさも特注にてお受けしております。
カーペットのバリエーションも季節ごとに多数ご用意しておりますので、
様々なシチュエーションにおいてご満足いただけると思います。
<どんな種類の絨毯があるんですか>
今の季節ですと、「桜の花びらカーペット」ですとか、「菜の花畑カーペット」なんかが人気ですね。
玄関先にさっと敷いていただいても日常が華やかになりますし
入学式の会場に敷いて春感を演出されるのも乙だと思います。
他の季節でも、夏なら、「真夏の砂浜カーペット」、「大草原カーペット」
秋なら、「落葉カーペット(もみじver.)」、「落葉カーペット(いちょうver.)」
冬なら、「雪景色カーペット」、「凍った湖カーペット」
あたりが人気となっております。
また年間を通じて多くレンタルされているのが、
花見やビーチでブルーシート代わりに使用できる「真っ青カーペット」。
こちら通常のシートよりも座り心地が良いとご好評をいただいております。
<おすすめの絨毯はありますか>
私のおすすめ、というより個人的に好きな商品でもいいですか?
うちの商品に「河原シリーズ」というものがあるのですが、
季節ごとに絶妙な違いを出した河原のカーペットになっております。
例えば春には桜の花びら、秋には紅葉をこっそりと浮かべてみたり、
泳ぐ魚も旬のものに変えているのです。傑作は秋の戻り鮭です。
担当者のこだわりが細かいので、是非皆さまにも実際に確認してみて欲しいです!
その河原シリーズの中でも、私の一番のお気に入りは「賽の河原」です。
「非常に積みやすい石」がセットになっているのでお得ですよ!
詭弁ウォッチャー
<サービス内容>
弊社のサービス「詭弁ウォッチャー」は、ネット上に溢れる数々の意見の中から、道理に反しているのに強引に正当化する理論、すなわち詭弁を判別するサービスになっております。
<どのように使用するのでしょうか?>
まずはお使いのスマートフォンやパソコンに「詭弁ウォッチャー」のアプリ、またはソフトウェアをインストールしていただきます。
スマホ版とPC版でその後の作業は若干異なりますが、共通の操作といたしましては
ご利用になられている検索エンジンやSNSを「詭弁ウォッチャー」に登録していただきます。
基本的な準備は以上になります。
これだけで皆さんのお使いの端末に流れてくる詭弁を判別可能になります。
<詭弁か否かの判断はどのようにしているのでしょうか>
詭弁とはこじつけであり、本来根拠とはなり得ない理論を用いて“論理的に正当であるかのよう扱われた結論”のことです。
ここで気を付けなければいけないのは、詭弁の結論は、ある意味では正しいこともあるということです。
例えば、「外から帰った時、手には大量の穢れが憑いていて、そのままだと不幸が訪れるので、外から帰ったら手を洗うべきだ」という意見があったとします。
この場合、「外から帰ったら手を洗うべき」という結論は確かに正しく思えますが、「手に憑いた穢れが不幸をもたらす」という科学的根拠はありません。
この意見を発見した時、詭弁ウォッチャーは「手の穢れ」と「手洗い」には論理的根拠がないことを示し、この意見が“詭弁”であることを利用者に警告します。
それと同時に、「手洗い」に関連する論理的な事象、例えば「手に着いた雑菌」などの情報を提示します。
<詭弁であることが分かった後、私たちはどうすればいいのでしょうか>
「詭弁ウォッチャー」は主観を一切含まず、学術的・統計的な情報のみを提供します。
つまり、皆さんが情報の取捨選択をするための手助けでしかないのです。
何が正しくて、何が間違っているのか。今の世の中に正解を示してくれる先導者はいません。
結局は、インターネットを利用する一人一人が本質を見抜く“目”を持つのが一番の自衛方法であり、人の世をより良くする最善のシステムなのです。
後書き
春の増刊号、いかがでしたでしょうか。
編集の紀村です。
編集長に突然後書きを任されたので
正直書く内容に非常に困りました。
私はこの便覧の仕事で、
いつも「おもしろい」という興味に突き動かされて取材をしています。
そしてその「おもしろさ」を誰かに共有したい。
その気持ちで編集します。
含蓄も人間味も豊かとは到底言えない不肖ですので
後書きで伝えたいことも思いつきません。
夕凪堂の話ならいくらでも出来るんですけど、知りたいですかね?
でもこう思うと、
私たちの仕事もなかなかに「おもしろい」物な気がしてきました。
自分たちの関心を取材によって深めて、文章にして皆さんにお伝えする。
そのプロセスが面白くて、私はこの仕事をしています。
皆さん一人一人のお仕事にも、それぞれの面白さがあるかもしれないし、
ひょっとしたら無いかもしれません。
ただ、日々の中の「おもしろさ」を見つけていくのが人生の醍醐味ですね。
気づいたら割と長くなっていましたのでここまで。
編集 紀村 融
御伽職業便覧 第1.5集
夕凪堂
編集
浜沫 海
紀村 融
長居 芯也
樫木 真琴
型町 早織