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平成の恋よ、さようなら。

限りなく忘れたいことは、いつだって蛇口の壊れた水道のように止めどなく思い出してしまい、それは膿んだ傷口のようにいつまでも心を爛れさせる。そして、忘れたくないことほど、時間を引き延ばしたくて口をつけなかったシャンパンの泡のように、どこかに消えていってしまう。

乗り越えたはずのいつかの恋は、忘れたかったはずなのに、時々引っ張り出して愛したくなる。哀しさを引き連れて泣きたくなるのは、いつだってそこに後悔があるからで。そんな後悔をうまく昇華できないまま、平成最後まで泳いで、ひたすらに恋して愛を言ったものの、花びらのようにひらひらと私の心は風に舞ってしまう。いつからだよ、こんなに不器用な恋とか愛しかできなくなったのは、上手に好きと言えなくなったのは、ねえ、君は今どこで笑っているの。

平成にいた君はどこまでも澄んでいて、曇りのない茶色い瞳で私の濁った目を見つめ、腫れ物に触れるように恋して、壊れ物を割らないように抱き締めてくれた。あのいつかの恋は、平成のどこに飛んでいって仕舞ったの。思い出すたびに、鮮やかな生き血が傷口を流れていき、もう届きもしないのに何度だって好きとか愛しているとか空虚な言葉を叫びたくなってしまう。届かない言葉なんてもう無駄だ。脳のどこか、記憶に蓋をして、ニューロンに見つからないように総て仕舞っておこう。



これ以上好きって伝えたくなってしまう明日が、どうか来ませんように。
平成の恋は、全部ここに置いていこう。
どこか遠く、奥深くに仕舞っておこう。

新しい令和になれば、何か変われるだろうか。変わるんだ、私は。私の好きな私に。

そんな私を好きになってくれる誰かと、令和最初の恋をして愛しよう。

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