水夏月青

映画、本、音楽、写真、アートが好き。雨、線香花火、しゃぼん玉、りんご飴、金木犀、紫陽花、枇杷、風鈴、星空、チョコレート、夜景、その美しい刹那のどれもに君がいてほしい。

水夏月青

映画、本、音楽、写真、アートが好き。雨、線香花火、しゃぼん玉、りんご飴、金木犀、紫陽花、枇杷、風鈴、星空、チョコレート、夜景、その美しい刹那のどれもに君がいてほしい。

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  • 脳内彼女日記

    私とあなたの居場所で生まれた想い出。

最近の記事

ピアスと夜しか愛せない

彼の額に、またひとつ光が増えた。キッチンで黙々と料理をする横顔に、きらりと光るピアス。その輝きに負けじと、夜闇に埋もれる前の一瞬を独壇場と言わんばかり、黄昏れの光に煌めくすすきのような髪が料理帽から覗いている。オーダーを伝えると、彼は少し顔を上げて無言で作業を切り替える。他のオーダーを取って戻ると、フードとドリンクが用意されていた。ホールの仕事であるドリンク作りまで終わらせて、一つのトレーにまとめて用意してくれる優しさから、見た目は怖いけど良い人だと知っている。無表情で読めな

    • 穀雨のシナモンロール

      今週から忙しくなる。先週会ったときに、彼はそう呟いていた。昨日だって、いつもの夜を企む時間に、遠回しに会えないことを伝えてくれた。忙しくなれば必然的に会えなくなるということはわかっていても、毎週会っていたら会えないことがもどかしくなる。会えなくてもいい、自立した大人だもん。と言い聞かせてはみるものの、彼のいないお昼に何を食べようか悩んでしまう私がいる。今日の彼は、お昼に何を食べるのだろう。ふとカレンダーを見ると『穀雨』の文字が目に入った。 穀雨とは、春に田畑に降り注ぎ穀物の

      • 微睡みの恋

         加速が滑らかになった新型車両の洗練された内装デザインに見惚れながら、ふわふわとしたシートに腰掛けていた。約束の時間は十九時半で間違いないことを確認する。背景のように薄く流していた音楽に、耳を澄ませる必要もなくなったことから、エンジンが進化して静かになったことを体感する。イヤフォンからは「もっと、ちゃんと言って」と、流行りの音楽が流れ、歌詞をかみしめるようにゆっくりと目を閉じた。いつの間にかうたた寝に溺れていて、気づけば終点だった。改札を抜けて西口のショッピングセンターに入る

        • 雪が雨に変わったら。

          雨水の日は、1年で1番好きな日にするって決めている。だけど、今年の雨水は好きな人に会えたのに、ちっとも好きになれそうにない。雪のような雨が都会に降り注いでいた。彼の家に向かう途中、綺麗なパンプスが水たまりに触れた。ビニール傘は濡れた街を透かしていて、イヤホンからは泣きたくなるほど愛しい歌が流れていた。 彼の部屋で雨の音を聴きながら、先ほどまで浸っていた湿った空気を探した。彼の空気に包まれて、呟いてみたくなった。 「雨水は1番好きな季節なんです。雪が雨に変わる日で」 これ

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        • 脳内彼女日記
          7本

        記事

          平成の恋よ、さようなら。

          限りなく忘れたいことは、いつだって蛇口の壊れた水道のように止めどなく思い出してしまい、それは膿んだ傷口のようにいつまでも心を爛れさせる。そして、忘れたくないことほど、時間を引き延ばしたくて口をつけなかったシャンパンの泡のように、どこかに消えていってしまう。 乗り越えたはずのいつかの恋は、忘れたかったはずなのに、時々引っ張り出して愛したくなる。哀しさを引き連れて泣きたくなるのは、いつだってそこに後悔があるからで。そんな後悔をうまく昇華できないまま、平成最後まで泳いで、ひたすら

          平成の恋よ、さようなら。

          平成最後の華金くらい、好きな人に会わせてよ。

          平成の終わりを見ることなんて、できないと思っていた。私の人生、12歳の時点で終わるはずだったのに終わらなくて、13歳の頃にまた終わらせようと思ったのに終わらせることができず、高校を卒業したらもう誰かが終わらせてくれるものだと。言葉のナイフを振りかざした母親は、結局私を生かし続けたし、私も18歳の先を少し見たくなり、都会の隅っこにある大学に出てきた。それでも、20歳になったら勝手に終わると何となく願っていたし、平成の終わりまで生きることができるなんて、少しも信じていなかった。

          平成最後の華金くらい、好きな人に会わせてよ。

          花冷えの空と、

          22時の銀座駅、C4出口を駆け上がった先。銀座の街を見守る交番があり、さらに不釣り合いな桜の木が佇んでいる。調和を取ろうと過剰に配慮した結果、どこかアンバランスさを醸し出す、現実離れした空間。そこに彼はいた。 「この桜を見せたかった」と子どもっぽく笑う彼に、表情筋もつられてミラーリング効果を発揮する。銀座のアンバランスな桜に交番、そして彼の笑顔とが見事なバランスで存在した瞬間は、この春に桜が隠していた宝石みたいで。この先どこかで、誰とどんな美しい桜を見たとしても、思い出すの

          花冷えの空と、