養魚秘録『海を拓く安戸池』(19)~格子戸水門~
野網 和三郎 著
(19)~格子戸水門~
安戸池着手、十二年目にして、幾多の障害を運営面に醸していた漁船の整理が実現したことは、事業の将来に対して、重要な意義を持つものであった。平たく言えば、これまでの膨大な設備投資は、この問題を解決に導くための、試金石であり、そしてこのながい期間に、これと思われる、養殖に対する試験研究が次から次へと目まぐるしく展開され、そして摑み得たものが鯛とハマチであった。現在行なわれている、養殖事業の実態からこれを眺めたなら笑止千万ものだが、あの時点では研究家たりともそうでないと指導してくれる人は、一人もいなかったのでありむしろかん水養魚事業の成不成に対しては実際のところ半信半疑の態度で見て見ぬ振りをしていたに過ぎなかった。