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養魚秘録『海を拓く安戸池』(29)~漁協移管~
野網 和三郎 著
〈注意事項〉
・文章、写真の説明文(キャプション)などは明らかな誤字脱字を除き、原文の通りとしております。ただし、著者略歴については、西暦を加筆、死去された年に関する記述を追加しました。
・敬称は原文に即して省略させていただきました。
・現在では差別的表現として、みなと新聞で使用していない表現についても、原文の表記をそのまま記載しております。あらかじめご了承ください。
・本書原本の貸与や販売は在庫がないため行っておりません。ご了承ください。
(29)~漁協移管~
二十七年内水面の適用を受けた安戸池の養魚をめぐり、組合内では意見の対立をみたのである。組合員の約半数と見られる者は、漁協の安戸池養魚経営は危険であるから、やらない方がよいというのと、役員をはじめ比較的進んでいる組合員は、組合長がやってくれるのであるから心配はないという意見である。
安戸池養魚を組合が運営することについても、漁民というものは、どこでもみられるように、びた銭一銭も出すものではないのであるが、やたらにやかましく意見は出てくるもので、その扱いには、当初において先行き暗いと見てとった私は、やはり組合経営では無理だと断定、辞表を出し、安戸池の海面復帰に乗り出し、その準備にかかった。
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こうなってくると、水産課長及び係官が血眼となって慰留に奔走する。それはこの公示をくつがえされたのでは、所管の水産課の大ミスになってくる、こんなところの自分を守ることについては寧日ないのが、頭にいる者の常で、また恥も外聞もなく、執拗に食い下ってくるのも北陸人のねばりである。香川の水産が、ながい間このねばりに翻弄されて来たかの感があり、このねばりが人と人との間に介在しては、香川水産の頂上政策に粗誤を来たし、あるいは対外的には不信を売り、内部にあっては、水産人相互相反目の素因をつくり、その虚に乗じ平然とねこばばを決め、長が居の椅子を欲しいままにしていたもので、私はこうした見えすいた女々しい態度が一番卑劣だと、他人の非を持ち込んでくる度毎に本人を目前にして直言していたのであるが、いつも彼からは敬遠されていた。また私の安戸池養魚事業に対しても、戦前戦後を通じ政府その他の働きかけなどにも、協力を受けたことなどそうなかったのである。