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養魚秘録『海を拓く安戸池』(28)~漁業制度改革~

野網 和三郎 著

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(28)~漁業制度改革~

 戦後一足先に、新らしく出現した民主政治の荒業によって、農地制度の改革が施行され、永い伝統と歴史のもとに守られて来た地主及び不在地主の農地は、新らしく制定された国の法律にしたがって、その当時でも常識を全く逸脱した安値で買い上げられ、想像もなし得なかった農業革命の大波は、全国農村を揺り動かし先祖代々これを守り通して来た地主もそれが軍政下のこととて、かたずをのみ、あれよあれよというまもなく、それが小作の手にゆだねられてしまった。これを手がけた政府は、漁業制度の改革と、次はそれが漁村にふり向けられてきたのである。丁度東水門改設のため、政府に対しその資金の導入に猛運動をやっている最中であり、戦後推されて漁業会長から組合長となっている私は、公私交々全く寧白なき東奔西走が続いていた。

  政府の漁業権買上げ価格査定に対しては、全国各地から、猛烈な運動が展開され、香川県では溝淵漁連会長などは、この問題について懸命な努力を払われ、結局二億数千万の獲得にこぎつけることが出来、これを各漁村に対して、過去における漁業の規模、実績等に照合した配分をなすため、委員会が構成され、厳正な査定、検討がなされて無事配分が終り、なお政府は買上げ後においては新らしく漁権を得る漁民から漁業料の徴収を予定していたが、これらについて我々も一役買って、反対運動に参加、この漁業料徴収については、ついに政府をして断念せしむることが出来、漁料のためには大変よろこぶべきことであった。

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