養魚秘録『海を拓く安戸池』(13)~真珠の核入れ~
野網 和三郎 著
(13)~真珠の核入れ~
五年六月、浜島を基地として、ハマチ稚魚を購入するかたわら、時間をみては水産試験場をおとずれ、養殖真珠についての現況把握に、係官からいろいろと説明を受けていたのであった。そして、この真珠を安戸池でぜひ試験養殖してみたいと、それとなく研究を進めていたのであるが、係官は瀬戸内海は冬季水温が十度以下に低下するから、無謀であると、またいずれの県においても、それはやっていないということであった。しかし、冬季を除いた四月中旬より、十二月一杯までの八カ月間は、外洋の水温と変らないので、この期間だけを利用して、手頃の真珠ができるのであればと、あれこれとデータを調べていたが、七年六月にいたり、いよいよ決行を試みたのである。
まず養殖可能日数を二百日として、この期間に商品として販売出来るサイ
ズは、十ミリ以下である旨、地元業者からの助言を得たので、その核入れ技術者の獲得に奔走したのであった。