養魚秘録『海を拓く安戸池』(11)~カキの養殖~
野網 和三郎 著
(11)~カキの養殖~
カキについては安戸池着手当時より、極少量ではあるが試験養殖をしていたのであった。安戸池には古くより、自然産の真ガキが池辺の小石や石垣に生産されていたので、山手際の干潮線下の浅瀬に、巾三メートル、長さ一五〇メートル程度の面積に地撒式養蠣試験を行い、その種ガキには屋島壇の浦産のものをあてていたのであったが、風味成長共によく、その当時香川県水産試験場に養殖主任の山田豊技師がおられたのでカキについての全国の模様をうかがったのである。ところが主産地である広島県その他では地撒式が主であるが、仙台地方などでは、垂下式養殖がとり入れられている事をきき、この方法であれば面積の割に、多量の生産が可能であり、生産度も上下平均してよい剝身が生れるというので、早速これを取り入れることにしたのであった。これについては、養魚事業は冬季は閑散期であり、養蠣事業を導入することによって、周年の生産が可能であることと、従業員も休ませずに使用することが出来るという考え方からであった。