養魚秘録『海を拓く安戸池』(8)~ハマチの古里~
野網 和三郎 著
(8)~ハマチの古里~
昨年志摩の国を訪れた時、浜島の仲買魚問屋の兵丹屋に本年度のハマチ稚魚の購入を依頼してあったので電報連絡をつけ二十トン三十馬力の活魚運搬船を仕立て引田を出航したのが六月十五日早朝であった。小鳴戸を渡り撫養口に出る頃になると、すでに内海とは対照的に大波が打ち寄せる紀伊水道である。二つ三つは必らず来る割れてかぶさる大波も、無事にくぐり抜け鳴戸口を出るともううねりの大きい大海原がはてしなく広がっている単調な航海である。途中日ノ御崎もすぎ、潮ノ岬も廻り勝浦港に入港したのが昼過ぎであった。地元の漁師や問屋にハマチの稚魚の状況を聞いてみると、熊野灘沿岸はその産地ではあるが、三重志摩よりの地域が一番盛んであるということであった。