【舞台鳩】解なし(言式)
解なし
脚本/演出 梅津瑞樹
2023年 10月25日(水)- 29日(日)
銀座 博品館劇場
キャスト
感想
公式サイトをご覧になれば分かる通り、なんの情報もないまま見ました。
行ってみたら5本の短編オムニバス形式での上演でした。
鳩はたまにこのユニットを立ち上げた梅津瑞樹さんの舞台を覗きに行くわけですけれども、それはどういうところからかと言うと、表現に対する誠実な姿勢と、そこから表現してくるものがたまに思わぬ方向から飛んでくることだとか、まともな演技を当然極めていて、考え抜かれた妙なことをする、ともかく面白みのある表現者だからです。
SYNOPSIS.1
「あ」という音のみで会話をして、物語が進んでいく演出の小品。
音の使い方でどうとでもニュアンスがとれるんだなというのが面白いのと、この"音"、演劇特有というか、絵画や小説には(通常は)ない表現方法なので、演劇の強みを活かしたものをはじめに選んだのだなあと思いました。
そのうえ「あ」の音のみに制約をかけながら魅せるわけですから、その魅力を倍増させているといえるのかもしれません。
最後「あ」の形に切り抜いた紙がたくさん降ってきたのですが、フォントのせいか「デザインあ」が脳内で干渉してきて、「あ」の声がたくさん聞こえてくるようでした。
SYNOPSIS.2
バナナ虫。なんなんだバナナ虫。
田舎にずっといて子供の頃から変わらない友人、意気揚々と地元から出ていったのに成功できず帰ってきた自分、というストーリーのラインから「バナナ虫(マイムで表現しているためすべては謎)」をつなげてくるのがすごい。
こうもっともらしく書いていますけど、この"友人"、樹木の着ぐるみで出てくるし、木から"脱皮"しますからね……この悪い夢でも見ているような、妙な現実感とのせめぎ合いが、面白いところでもあり、好きなところでもあります。
SYNOPSIS.3
金持ちの男とその友人。金持ちの男が大量の物に囲まれて生活しているのを、友人が「心が満たされていないからこんな生活をしているんだ」などと指摘して……のような話。
全編通して、小道具はほぼほぼ使わず、大道具の代わりになるいくつかの箱とマイムだけで表現しているのですが、そのマイムの表現が、この小品で一番輝いていた。広い家の一室の様子、窓を開けた向こうの広い庭、なんとかという犬(犬種名を忘れた)、部屋のしつらえ、レコードプレイヤーだとかコーヒーミルだとかの生活の雑貨……そのすべてが鳩にも"見えていた"。そしてその中でただひとつ、友人が壊して焦る"謎の物体"のみが一体何なのかまったくわからないように表現していて、かなり笑いました。この物体が何なのか、こちらの想像力というか空想力というか……が試されていた笑
オチもブラックで良かったです。このお話が一番好き。
SYNOPSIS.4
工場を舞台にバイトと工場長が「夢」の話をしつつヒートアップしていく。工場長が吹っ切れたあたりからもうやりたい放題で、だいぶん笑いました。
舞台上で、たんぽぽ(菊)の花びらだけが色鮮やか。夢ってそういうものだったのかなあ。
SYNOPSIS.5
ユニット旗揚げ公演!と言って、役者の死と劇場の破壊をやるとは思わなかった。これから公演を重ねてその道の先を歩いていくのに????? 死ぬまで板の上にいるというような、また劇場という小さな場所に限定されないというような、決意表明にも見えましたが、これはまあ鳩の勝手な想像でしょう。表現者として悔いなく、すべてをやりきりたいものですね。
まとめ
ほんのここ最近、梅津さんの表現するものを見ていただけで言うのもなんですが、もう少しご自身の色を出してくるかと思っていたので、少し拍子抜けしました。表現者が鑑賞者を突き放すのは、一面では良くない部分もありますが、そこを抑えて世界観を立ち上げていくのはまた別の話なので、そのバランスをとって、やってくるのかなと思っていたのですが……。
とはいえ、きっとこの公演のあとも何年も続けていく取り組みになっていくのでしょうし、人が増えたり減ったり、形式が変わったり変わらなかったりして、いろいろな公演を作っていくのでしょう。
ですから、またいつか、ばちばちに極まった、この二人の世界を見せてくれるといいなあと思います。
今後の動向も、とても楽しみです。
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