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【文楽鳩】曽根崎心中(BUNRAKU 1st SESSION / 国立劇場)

前回、国立劇場で文楽を見た時に、曽根崎心中を好きになったので、このプロジェクトもチェックしつつ行くかどうか迷っていたのですが、思い立って行ってきました。

トレーラーの通り、通常は大道具を立てて行う公演を、アニメーション背景で行うというプロジェクトです。背景美術は、スタジオジブリの背景画を数多く描かれてきた男鹿和雄さん。
演目は「曽根崎心中」から、最後の道行の場面「天神森の段」です。

「曽根崎心中」のざっくりとしたあらすじは以下の通り。
醤油屋の手代・徳兵衛と、天満屋の遊女・お初は恋人同士。
しかしそこに徳兵衛への縁談が舞い込んだり、九平次との金銭の貸し借りを巡って諍いが起き、徳兵衛が衆目の中で面子を潰されます。
徳兵衛の身の潔白を示すためには、死ぬしかないと決意する二人。
夜、家を抜け出してきた二人は、曽根崎にある露天神社の森で心中を果たす。
近松門左衛門の作で、当時実際に起こった心中事件を元にした話です。

今回上演されたのは、このお話の最後、天神森まで二人で歩いて行き心中を果たすまで、という部分です。


・解説 BUNRAKU 101
前半は、いとうせいこうさんと豊竹藤太夫さんの解説。海外の方が多くいたのですが、どうもイヤホンガイドのようなもので同時通訳していたらしく、すごいな……となりました。ああいう専門用語を交えてされる何気ない口語、翻訳がものすごく大変そう。
義太夫さんの発声の仕方などのお話を楽しく陽気に喋りまくってくれたわけですが、あれだけわちゃわちゃ楽しませてくれる人が、次の瞬間には心中を唄うんだからすごいですね。

・曽根崎心中 天神森の段
心中ものってどうしてこうぐっとくるんでしょうね。心中ものといってもまともに見たことがあるのがこの曽根崎心中のみなので、この演目に限った話なのかもしれませんが(まだわからない)。上記トレーラーが本当に一番良い場面、互いに下帯を巻き取って心中を遂げるところですが、もうただただドラマチック。暗い森を二人で決意して歩いてきて、少しの悔恨を残したり念仏を唱えたりしながら、行き着く最後がここ。入水やなんかと違って、最期まで互いの顔を見ながら息絶える。あらゆる考えは一旦置いておいたとして、この構成は本当にぐっときます。何度見ても良い。

そしてこれは鳩が歌舞伎を見慣れた経験値故なのかもしれないのですが、お人形が本当に生きた人間の動きに見える。見たことある人間の動きが、お人形の動きを補強している感じがして、前回よりもよりお人形自体を等身大の人間として見ることができたような気がします。あともう一つ、経験値故か、はたまた太夫さんの腕か、義太夫がまともに聞き取れていて驚きました。以前はこんなにちゃんと聞き取れなかったような……? 鳩レベルアップかもしれない。良いですね、楽しさが増えます。

肝心の背景について、これはもっと動くと面白いのにな〜と個人的には思いました。せっかく投影するなら、ずっと風に葉が揺れていたりしたらもっとあの夜の情景を引き出せるのでは、と。ただ全編大部分がアニメーションになったらそれはそれでネ……あらゆる事情があるでしょうから……理想論でございます。しかしこのためにお人形にきちんと目がいく、というのは確かなので、背景が背景としてきちんと仕事をしているともいえますね。また、今回鳩は二階席から見ていたので、一階席だとまた見え方が違うのかもしれません。
最後は、心中を遂げて森から空の景色へ。空にふたつの星が浮かび、夜が明けるという終わり方でした。これは心中を遂げたことで二人の夜が明けて輝かしい朝がきた、という演出だとは思うのですが、なんかこう、もう少し違う方法で何かをしていたらみすみす死なずに済んだのに(もうすぐで朝が来るはずだったのに)というようにも思わされました。今までの大道具の曽根崎心中だと、こういうことはぱっとは思い浮かばなかったような気がするので、新しい演出がもたらした新しい見方かもしれません。

もしかして:文楽、曽根崎心中しか見てない……? ということに気がついたので、違う演目も見に行こうかなと思います。
ちょっと迷っていたのですが、やっぱり見ておいて良かった、面白かったです。そして何度見てもお初の目が眠るのにびっくりする。まばたきというのは、人間の表情をつくる重大な要素のひとつなんだなと思わされます。

よみうりホールには初めて入ったのですが、二階席とても揺れる、怖い……。また傾斜が浅く、座席も千鳥配置ではないため、かなり見づらいです。(追記:よみうりホールは二箇所あるんですね、今回のは有楽町の方です)



公演概要

令和6年3月文楽入門公演 「BUNRAKU 1st SESSION」
2024年3月23日(土)~2024年3月29日(金)

解説 BUNRAKU 101(ブンラク・ワン・オー・ワン)、曽根崎心中 天神森の段
有楽町よみうりホール

露天神社は大阪府大阪市北区曽根崎にある神社。
大阪駅の近くで、大都会の、その中心、商店街を抜けた先にひっそりあります。


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