【歌舞伎鳩】大江山酒呑童子・新 水滸伝(八月納涼歌舞伎)
歌舞伎座新開場十周年 八月納涼歌舞伎
2023年8月5日(土)~27日(日)
第一部:裸道中・大江山酒呑童子
第二部:新門辰五郎・団子売
第三部:新 水滸伝
大江山酒呑童子
ざっくりとしたあらすじ:
大江山に住まう鬼神が夜な夜な都の女を拐かすなどして悪さをしているため、退治に行く舞踊劇。
鬼神は童子の姿をしていて、お酒が大変好きなため、酒呑童子と呼ばれる。
退治に行くのは天皇から命を受けた源頼光と平井保昌、頼光四天王(渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武)。
旅の僧に扮して酒呑童子の屋敷に入り込む源頼光一行。
酒呑童子のお酒好きを利用して、鬼が飲むと神通力を失い、人間が飲むと生気が増す酒「人便鬼毒酒」を差し入れる。
酒呑童子はだんだんと酔っ払っていき……。
きちんとしたあらすじはこちら。
酒呑童子:中村 勘九郎
平井保昌:松本 幸四郎
渡辺綱:坂東 巳之助
坂田公時:中村 橋之助
臼井貞光:中村 虎之助
卜部季武:市川 染五郎
濯ぎ女わらび:中村 児太郎
濯ぎ女なでしこ:坂東 新悟
濯ぎ女若狭:中村 七之助
源頼光:中村 扇雀
酒呑童子は幕見で。
鳩、だんだん歌舞伎のシステムを理解してきました。
なんだか勝手に酒呑童子は青年くらいの姿と思っていたのですが、ほんとうにちゃんと童子だった。もはや可愛さすらある。
酒呑童子がはじめにすっぽんから出てきて、山を見渡すように遠くを見ていたのですが、ここで幕見席にいる鳩まで視線が届いたような気がして、それまでの演目では見たことがない視線の使い方だと思った。そんな上まで見上げてくれることあるんだ。
そしてこの登場の瞬間、お香の香り?がしたのですが、もしかしてあれも演出のうちですか……? 歌舞伎、やることが計り知れなくて、一体どこまでが演出で、どこまでが気のせいなのかが分からない。
前述の通り可愛らしい童子姿で、めちゃくちゃに酒を煽るし酒を要求するし、酒を飲むのに忙しいので、源頼光のお話は聞いていない。せっかく作ってきた偽りの身分の話をしているので聞いてあげてほしい。
そうして上機嫌に舞い始めるのですが、酒に酔っているのが分かるのに緩急ある美しい舞で引き込まれた(これを思い出しましたよね・酔っ払った演技をしながら踊りの精度を保って観客を魅せるという点で)。
この酔っ払いながら舞っているところ、だんだんと顔が紅潮するように頬紅が強くなっていた気がするんですけど、これは本当にさすがに気のせいか目の錯覚……?
最初の童子姿は、にこにこしていて子供らしく、可愛くてコミカルなのに、どこか妖しく人間ではないような雰囲気と行ったり来たりするのが見事だった。
一度酒呑童子が屋敷の奥に引き下がったところで、お着替えタイムだ!と分かるようになりました。
屋敷に拐われてきた女たちが、身の上を語りながら舞い、酒呑童子の寝所へ案内してくれ、鬼神の姿となった酒呑童子が現れる。
鬼神の姿、毒が回っていてもう先ほどの童子の面影もなく、それでも頼光一行に立ち向かう気迫がまた素晴らしかった。
頼光四天王のうち坂田公時だけが、赤いお化粧なのはなんで?(学び:赤っ面という・家来などのやや下っ端の乱暴者を表す/今回のではない坂田公時/お化粧品について)
結末はもちろん、酒呑童子は退治されてしまうわけですが、酒呑童子があまりに魅力的で、見応えのある演目でした。
この退治される側が主役で、それを舞踊として魅力的に表現する、という物語のかたち、面白いですね。ほかの演劇的なものにも、こういう筋のものはあるんだろうか(元が能の演目なので、それは別として)。
新・水滸伝
ざっくりとしたあらすじ:がさすがにまとめられない……。ため、引用でご容赦。
林冲:中村隼人
お夜叉:中村壱太郎
晁蓋:市川中車
高俅:浅野和之
彭玘:市川青虎
姫虎:市川笑三郎
青華:市川笑也
一番はじめにとりあえずこれを言わせていただきたいんですが、林冲さんが格好良すぎませんか……? ちょっとびっくりしちゃった。
音源が生ではなく録音のもので、舞台も全開放?奥まで使って広い空間を出し、人数も多く、という迫力のあるスケールの大きい作り方をされているのが、エンターテイメント性を押し出していて良かった。
幕見席なのでどうしても舞台奥や、大迫りが上がったりすると上方が見えないのが惜しいところ(背景に月や星が出ていたみたいだけど、まったく見えなかった)。けれどもそんなことは些末なことと言えるほどに迫力満点、力のある物語で面白かった。
余談:廻り舞台を前後に仕切らずに使っているのを見ていて思ったんですが、IHIステージアラウンド東京ってこの要領で回ってるのかな(あれは客席が回るわけだが)。
はぐれものの悪党たちの下剋上、お話として強さがあるな〜と感じた。正しい側の悪、悪役側の善。当然なんだけれども、正しい側が常に正しいわけでもなく、また悪役側も善性を持っていないわけではない。
まあ難しいことを言わずとも、悪役の無骨で強い、魅力ある人間たちが、信念をもとに正義面をした悪をばったばったとやっていく話、格好良いわけですよ。これこそが物語の強さ。物語の面白さ。
現実の世界の中で、悪しき側にあまり心を寄せてしまったり、それを正しいと思ってしまうことは間違いになってしまうことの方が多いからこそ、それができることこそが創作の世界の面白さの一つだと思う。
仕事が嫌になって唐突に幕見に駆け込んだわけですが(もともと切符はとっていなかった)、見終わった後の高揚感と爽快感がとても良いリフレッシュになり、もう明日からも仕事したくねえな〜〜〜〜〜〜!!!!!!!という気分になりました。
壱太郎さん(お名前を覚えました)のお夜叉の役、もちろんお夜叉も悪人なわけですので、お姫様のような感じではなく、よく喋るしおきゃんな感じで、それがとても良かった。お姫様も好きだけど、ああいうお役をたくさん見たい。
劇場の舞台の見え方の写真、インターネットで探して参考にされる方も多いと思うんですが、座って撮っていなかったりして全然参考にならないことが多々ありませんか?
ということで、毎度(自分用に)きちんと座って写真を撮って残しています(歌舞伎座は演目の時間外なら写真が撮れます)。
そういえば英国ロイヤルオペラハウスの座席表、どのお席からの見え方もHP上で見れるようになっていてすごいということをこの前発見しました(適当な公演の「Buy tickets」から「Use our seatmap」を選ぶと見られます)。すごい。