「子なし様」は人格が未熟
子供を持たない人間は、しばしば「人格が未熟」と評されることがある。なぜなら、子育ては人間が一生のうちで直面する最大級の複雑な課題の一つであり、それを経験していない者は、人生の深みを十分に味わえていないと見なされるからである。
赤ん坊は糞尿を垂れ流し、意味不明に泣きわめき、完全に保護者に依存する存在である。その面倒を毎日見続ける中で、親は苛立ちを覚える瞬間もあれば、「こんなに必要とされるなんて自分には責任があるな」と重圧を感じ、さらには「笑ってると世界で一番可愛い」と心が温まる瞬間も味わう。その多面性は、怒り、愛情、責任が複雑に絡み合う心理的な迷路である。子供を育てる経験は、この混沌とした感情の渦に身を投じることで、人としての幅を強制的に広げる。そうした「幅のある」人間を成熟と呼ぶのであれば、子育てを経験しない人々は確かに、そうした複雑な感情を知らずに通り過ぎる可能性がある。
「食わせている」と「努めて育てる」
子育て経験者の中には、「誰が食わせていると思っているんだ!」という怒りや偉ぶった気持ちを隠せない親もいる。一方で「子供を立派に育てるのは親の努め」という、ある種の献身的な使命感も存在する。
前者は経済的・物理的な労力への苛立ち、後者は親としての道徳的責任への自覚である。どちらも極端なようでいて、多くの親の胸中にはその両方が同時に息づいている。
「子供は親に感謝すべきなのか」という論点はしばしば議論を呼ぶが、子供が成長する過程で、親の苦労や責任感に対してある程度の敬意を示すことは、家族関係を円滑にする上で意味がある。この「敬意と感謝」のバランスは、一朝一夕で育まれるものではない。子供は親の内なる複雑な感情に触れることで、世の中が単純な善悪や白黒では測れないことを学ぶ。逆に言えば、子供側が「親が養ってくれて当たり前」という態度しか取らなければ、親からの不満は当然噴出するであろう。
キラキラ理想論を語る「狭い世界」の人々
人生経験が浅く、自分の手に収まる範囲の小さな活動に終始する人々ほど、「親が子供を養うのは当然」だとか、「社会はもっと優しいべき」といった綺麗事を声高に主張する傾向がある。こうした人々は、実際には子供を育てたことがなく、真に複雑な人間関係や責任の重みを体験していないケースが多い。
独身者や子無しの人間が必ずしも「未熟」とは限らないが、子育てによって得られる複雑な経験は、確かに大きな精神的成長を促す要因になり得る。彼らが「道徳を説く」のは自由であるが、その意見は時に現実の重厚さを欠き、理想論を押し付けるに過ぎないことがある。「親が面倒を見るのは当然」という断定的な価値観を持つことは、結局のところ現場の苦労や葛藤を理解しないままの無責任な姿勢といえる。
感謝なき者は、歪んだ組織に呑まれる
親への感謝を学ばず、幼い頃から「養ってもらって当然」という感覚で育ってしまえば、大人になっても他者への敬意や感謝を表すことができない人間になりかねない。それは職場関係にも波及する。上司や経営者に対する最低限の敬意を示せず、周囲が自分を支えてくれている事実を当然視する者は、健全な組織で嫌われる。結果として、そうした人間は結局、自分と似た不満や愚痴の吹き溜まりであるブラック企業に流れ着き、さらなる不幸を背負い込むことになりがちである。
感謝や尊敬は人間社会を円滑にする潤滑油である。それを学ぶ機会は多岐にわたるが、最も深く骨身にしみる形で学べるのが、子育てという複雑な営みに他ならない。家庭内で「誰が食わせているのか」「なぜそれが当たり前ではないのか」を理解し、受け止めることで、社会に出てから他者と健全な関係を築くための下地が生まれる。
「親は許す」幻想と、無理解者が行き着く末路
世の中には、「親が子を養うのは当然」という価値観を疑いもしない人々がいる。
その背景には、親はどんな態度をとられようとも、子供を許し、愛し続ける存在であるという幻想が根付いている。しかし、実際の親は人間であり、怒りも不満も持つ。その事実を直視し、感謝を示せないまま大人になった人間が歓迎される場所は、決して健全な組織ではない。むしろ、歪んだ人間関係の温床となるコミュニティでしか生きられない可能性すらある。
「独身のクズ」と呼び捨ててしまう乱暴な言い回しは、極端ではあるが、そうした表現が飛び出すほど親側の心理が苛立ちや孤独、あるいは怒りに満ちている現実があることも事実である。無論、「子無し様」であっても人格者はいるし、「子持ち様」あるいは、子育て経験者がすべて人間的に優れているわけでもない。
ただ、子育てを経験することで得られる「他者に対する複雑で深い理解」は、感謝を欠いたまま成長した者の狭い世界観には欠けていることが多い。
親に感謝しろ
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