私の檻に閉じ込めたい【ショート小説】
「うわっ、なつかし」
居酒屋の棚に置かれた小さな本を取る。
動物占い。一世を風靡した、生年月日から十二種の動物にあてはめて性格診断をするという、単純な占い本だ。
「あの頃は、テレビでもズバリ言うような特集がよくあって、占いブームだったなぁ」
「知らないです俺、生まれてないかも」
「そんなわけないでしょ。生年月日教えて」
「一九九五年、六月五日です」
若いな、と思った。若すぎるよな、さすがに。私は、ぐいと卓上のビールを飲み干す。
「えっと、花本はコアラ。サービス精神旺盛、笑いを取るのが大好きで、計算高い、だって」
「なんですかそれ。え、美咲さんは?」
「私はペガサスよ。この占いの中、唯一の空想上の動物で、感性とひらめきに鋭さアリ」
「かっこつけてるなぁ。あれ、ここ見てください、コアラとペガサス、相性が良いって」
花本は、笑いながら、私の肩に手を置いた。
正直、ただの占いだと思う反面、天にも昇る気持ちだった。相性が良い、相性が良い、相性が良い。花本の声が、頭に響いていた。
「ビール、おかわりぃ」
「美咲さん、飲みますね」
「いいでしょ、今日は打ち上げなんだから」
「じゃあ、俺も、カシオレひとつ」
「かわいいのばっか飲んで。『こじか』か!」
「なんですかそれ」
「だから、動物占いの、動物ギャグ」
「美咲さん、おっさんですね」
私は花本のおでこをぺしっと叩く。
いてぇ、と笑う。
良い気分だった。ひと回り以上も若い部下と、馬鹿みたいに飲みまくって騒いだ。こんなに楽しい金曜日は、いつぶりだろう。
「美咲さん、もう帰りますよ、タクシー呼びましたから」
「花本ぉ」
飲み過ぎてしまったか。もたれかかる私を、花本は見事な手さばきでタクシーに詰め込む。
「来週も仕事、よろしくお願いしますね」
「たまには『送りオオカミ』なれよぉ」
ドアが閉まる。花本は、またしてもなにも知らないというたぬき面で、私に手を振った。
了