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クリスマスに一番不向きなプレゼント、福本伸行の「二階堂地獄ゴルフ」単行本

クリスマスに一番適したプレゼントはケーキ。
一番適してないのは二階堂地獄ゴルフの単行本だ。

「カイジ」よりもさらに前の、売れるとは思われてなかったころの福本伸行の作風。
題材はゴルフ。
ぎりぎりでプロテストを落ち続けて35歳になった男の悲哀、だんだん周囲からめんどくさい人と思われていてもプライドを捨てきれない意地、そういうことを描いている。

ゴルフでなくても「漫画」や「お笑い」に置き換えて読める。
M1グランプリはじめ、賞レースにギリギリ手が届かなくて人生の迷路にはまっている芸人さんに重ねて読んだ。夢は呪いだとライムスター宇多丸が言ってたけど、そういう呪いに苦しむ男の話。

ゴルフを始めたばかりで才能を発揮し、一般人の中では天才ともてはやされたのに、世界ランキングどころかプロ入りのかかったパットをはずし、何年も足踏みしている二階堂。
一人でブランコをこぎながらイマジナリーフレンドと会話する二階堂。
何年も挑戦し続けたプロゴルファーへの道を諦められなくて、飲み会で気まずいあいさつをして資金のカンパをお願いする二階堂。

そしてまた一人、自分より上手いけどスターにはなれないことを悟ったプロ志望の若手、桐島が去っていく。
諦めないで努力すれば夢はかなう、なんて嘘だと知っても努力していた才能のある年下が、二階堂に去り際に放った一言。
「あんた何で辞めないの」
からの、よろめきながらも意地を吐く!

「ゴルフ」という多少は年齢的に粘れたり、経験や運に左右されるところが大きいスポーツだから、夢を追える。
だから、よりたちが悪い。
格闘技だったら失神KOとか、陸上ならタイムが絶対に伸びなくなるとか、決定的に諦めないといけないときが早めに来るけど。

福本伸行という人は、終わった漫画家としてよく名前が出る。
人気のあった過去作をギャグにしたスピンオフを似ている絵の別人が描いて、本人は同じ雑誌のさいごのほうでしぶとく連載を続けているのを見た。

「カイジ」「アカギ」ブレイク直後にすぐ辞めたら「伝説の漫画家」として暮らせるだろうに、まだ敗者や挑戦者の立場から世間をにらんでいる。
それが、その生きざまが一周回ってかっこよく見える。
ダジャレが本当につまらなくて、読んでてガクッと首が折れそうになるが、「ため息をしないと次の呼吸ができなくなる」とか、痛々しさと狂気を感じて惹きつけられる場面がある。


読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。