【読書記録】小説すばる2024/2 イノシシとクマの芸風。好きな読みきり「優しくない友達」
「小説すばる」に「猪之噛」って巨大イノシシを狩る小説が連載されている。最初は純粋におもしろくて読んでいたけど、
だんだん
「クマとどう差別化していくんだろう」
と考えながら読んでいる自分に気づいた。
別にイノシシも
「あっ!俺、最近ブレイク中のクマと芸風かぶってる!」とか意識しないだろうけど。
直木賞の「ともぐい」だったり「流れ星銀」の最終章が始まったり、時代は クマなのかもしれない。あとリラックマとプーさん。
熊小説のなにがいいって、立ち入った人間が消されるJホラー的なスリルと、自然の気高さのようなものが両方ある。
恐ろしいけど、「増長した人に身の程を思い知らせるための神の使い」みたいなところもある。
それに熊小説は、日本ならではって感じもする。
街と自然が近くにあって、銃のスペシャリストが少ない。
アメリカを獣が襲う話だったら、もっとモンスター化して軍隊でも歯が立たない巨大グマまで進化しないといけない。それだとB級映画だ。
「クマもの」「犬もの」「猫もの」
いろいろあって、作者の「この動物にはこうあってほしい」って思いが込められている。
馳星周の「少年と犬」も直木賞を獲ったけど、レビューで絶賛されていてびっくりした。
裏社会の抗争を書き続けて、何度も何度も直木賞に弾かれた馳星周が、犬になると「いい話」を書くことにまず驚いた。初代「龍が如く」の脚本に関わった人だぞ。
飼い犬と生き別れた犬が、運命に導かれて日本を縦断していく。
「愛犬家は犬にこうあってほしいんだ」と思った。
ネコだったら、
「しんどいけど、近くにそれなり暖かい寝床があったからまあいいや」かな。
中編読み切りの「優しくない友達」がいちばん印象的だった。
ごく普通の女子が、言いたいことをスパッと言う友達と知り合って、少し変わる話。
言いたいことをズバズバ系女子の島津さんは、たくさん食べ物を注文したときに、周りから「ひとくちちょうだい」と言われて、
「嫌だ」
と答える。女子グループの中でそれが言えるだけで相当異質な人なのだ。
思ったことは口に出す。空気を読まない。アイドルが嫌い。そんな島津さんに衝撃を受けた主人公が少しだけ変わる。
「あー、なるほどこういう話ね」
と思わせてからの後半の展開が面白い。大人になって、疎遠になっていた空気を読まない島津さんと再会するのだ。
しんどくても頑張っている仕事のことをめちゃくちゃ悪口言ってくるし、歯切れの悪い女性のことを、いい年して何やってんだとはっきり言うし、なんか悪口が止まらない。島津さんは大人になってもずっと変わらない。
そんな旧友を見て
「あれっ、こんなに嫌なやつだっけ? うん。たしかにこんなやつだった!何で魅力的に見えていたんだろう?」
と魔法が解けるのだ。
人が好きなものに対してすぐ悪口言うし、仲良くしてるのに水ぶっかけるようなこと言うし、すごく嫌なヤツじゃん!
読んだ僕のイメージとしては、外見がメイプル超合金の安藤なつ、中身は気が立ってるときの高嶋ちさ子みたいな人。
なんでこんな人がかっこよく見えたんだろう。
流行のアイドルに乗らずに悪口を言う彼女が、大人になったら子供じみて見える。何で他人の趣味に口を出す権利があるんだろう?
クラスの悪友が、出会ったときは自分の知らない新しい世界を見せてくれたのに、冷静に大人になって考えたらあいつ嫌だよな、、、って誰しも思い当たるふしがあるんじゃないか。
疎遠になる感じもリアル。90年代からの時事ネタもあって好きな話でした。