【読書記録】高山羽根子「ススキの丘を走れ(無重力で)」
この中に収録されている、小学生のころの記憶を掘り返す短編「ススキの丘を走れ(無重力で)」がすごく好き。
自分もこんなきれいで不思議な小説を書いてみたい。分量的には30分ほどで読めます。
学校を卒業してしばらくして再会した人がいると、こんな会話が発生しませんか。
「あいつ覚えてる?」
「あの子今何やってるか知ってる?」
そんな感じで、記憶を掘り起こす話。久しぶりに再会した同級生と、子供のころいっしょのクラスにいた、でも、ある出来事以外はそれほど覚えていない、その他大勢だった子の記憶を掘り出す。
思い返す対象になるのは、ヤスダという坊主頭の少年。おばあちゃん子で、クラスの暗黙のルールで両親についてはふれないようにしていた。
その子がおばあちゃんを亡くしたあと、学校におばあちゃんの愛用していたスカートで登校してきたのだ。
坊主頭のまま、スカートでふつうに来て、なにか主張したいわけでもなく、当たり前のように授業を受けた。
主人公は、その日のヤスダくんのことだけは強烈に記憶している。
体育の授業で、先生が危険だから体操服に着替えるように説得すると、クラスが団結して「ヤスダを守ろう」の空気になって、スカートで運動するのが危ないのなら私たちはそんな危険なものを着ないといけないのですか、と先生を納得させてしまい、ヤスダはスカートのまま、その日の体育で、まるでスカートがもともと走るために作られた服だったかのように速く走った。
主人公がその後のヤスダの行動、今は何をやってるかを全く知らないでいたことについて、
「マジで!? お前なんにも聞いてないの?」ってぐらい驚かれる。スカートをはいて登校した件とは全く違うことで選ばれて大きな存在になっていたのだけど、とはいえ今は関係もないし、名前もすぐ出てこないぐらいのクラスメイトだったから、すごいことを成し遂げているけどそこまで強い興味もない…。
ちょっとした会話から、子供のころの小さな記憶が一気に蘇る感じや、大人の人間同士の距離感に、「わかる!」といちいち本を閉じて言いたくなる。
表題作は芥川賞候補にもなってるし、SF短編も収録されてるし、カバーの知的な感じとちがってやさしい語り口で読みやすいです。