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テレビを売ってゲーミングモニターを買い、10歳若返る

「成功者ほど大きいテレビを持つ」

と子供のころから刷り込まれていた。
レトロゲームがレトロじゃなかったころから、「これを大画面テレビ様で遊べばどんなに楽しいだろう」と夢見てた。
そんな自分がまさか、まさか大好きなテレビを手放してゲーミングモニターを買うなんて。
自分の変化を認めて免許を返納するのはこんな気持ちだろうか。

選んだのはBenQのMOBIUZ。
XBOX/Sと組み合わせて、ゲームを一番コスパ良く遊べる。ゲームは無駄遣いを極めるほど美しいんだが。

今まで使ってたテレビは、テレビとしては遅延の少ないレグザ。
不満はないけど、黒に自分の顔が写りこんで、ガチなゲーム配信者の環境を見ると「ヌルい環境だなあ」と思うようになった。
高校のときまでクラス一のゲーム好きだったのに。

たとえるならスマホ用カメラと一眼レフ。普通に使えるけどレスポンスが「ヌルい」。
個室の読書、レコードの音楽、映画館の映画ぐらい、純粋に娯楽に溺れたい。そこで、

テレビを売ってゲーミングモニターを買うことにした。

好きなお笑いは見逃し配信でおぎなえる。

まず、リサイクルショップにテレビを持っていくのが一苦労。箱に詰めながらセンチメンタルになる。
子供の頃は自室にテレビがあるのが嬉しくて、深夜番組も音量消して必死で見た。
よく聞く、今のテレビつまらなくなった説は「昔の音楽は良かった」ぐらい信用できないと思っている。でも、物があふれて逆に不幸になっているから。

積もったホコリを拭いて、元箱にしまう。保証書の日付に、年始のセールで買った記憶が蘇る。

車に積むためテレビをかかえて歩いた。自分の車の後部座席を久しぶりに見た。
リモコンを忘れてることに気づいて、あっぶねセーフセーフ、と一度帰って車内のドリンクホルダーにリモコンだけ立てかけて発車した。

車も古い。正月に突然最高時速がシニアカーぐらいになるサプライズをしかけられて、そろそろ廃車にしないとと思っていたが、売られていくテレビを積まされて
「あっやべ次は俺だ」と危機感を持ったのか、その日だけ快調に走った。

何かを売却する時はショックを受けないように、値段が付けられずお断りされるレベルだと自分をだましてから査定してもらう。
提示されたのは5000円。ヨシ!
ヨシじゃないんだが。苦労して買ったテレビ様だぞ。

家電量販店で目星をつけていたモニターを買う。

BENQにした決め手はスペックと、台座がSF感あったから。

買ってからわかった。モニターは薄いがスタンドが重いから、箱がでかくて大変。

同世代が子供のランドセルとか買ってるのに、同じぐらいの金出して「ゲーミング」してますよ! 昼間から汗だくで「ゲーミング」にしか時間とカネの使いどころがないやつが歩いてますよ!と宣伝してるみたいだ。

この日のために節約して、スーパーの割り引き総菜で命を繋いできた。
悪いことはしてない。
そうだ。何が恥なことか。堂々と、俺のもんだぞ!良い環境で遊べるのだぞ!羨ましかろう!とゼルダみたいに掲げて玄関に到着。
今年初の夏日である。

「おいおい汗だくでゲームやろうとしてるおっさん痛えwww」と自嘲しながらXBOX起動!

感動の瞬間。

画面が…
付かない!
そこから、裏にちっちゃい主電源があるのに気づくまでコンセント抜き差ししたり、しばらく格闘が続いたのち、やっと、メニュー画面がうつる。

来るぞ来るぞ、ヌルヌルの画質だ。コントローラーに即反応する格ゲーだ。

後ろの発泡スチロール、テレビの箱に入ってたのに一度出したら入らなくなった。

そんなわけないんだけど、ボタンを押す直前にカーソルが動く感覚すらある。今までボタンを押し込んだ瞬間に画面が反応していたから。

BALATROというトランプのゲームをすると、BGMにまぎれて聞こえなかった、カードを配る「シャッ」て音が聞こえる!
初めに驚いたのは音が粒立ってることだった。

まぶしい!朝の出勤時の光だ!サングラスがいる時間帯だ!でも滲んだ光ではない。暗くするべきか、まぶしいのが正解なのか。ドライアイと相談しながら調整だ。

陰影!! 久しぶりにストリートファイター6を起動した。
このゲームの「遅延軽減モード」で、画面が乱れるけどレスポンスが良くなるよう設定できる。
その機能によって自分のテレビに遅延があることを知ってしまった。

レスポンスだけじゃない。黒がダークマターみたいに光を吸収し、画質、音質がこれまでより主張している。

CGをほめるのに「実写」というけど、逆だ。

ぼやけて人や髪が本物みたいだったのに、実写じゃないのがちゃんとわかる。
風景写真に見えた絵画が、間近で見ると筆のタッチの跡がわかるみたいに。

コントローラに置いた指先に直結して、キャラクターが跳ぶ、殴る、叫ぶ。壊す。BGMも効果音もハッキリ聞こえる。殴られる。むかつく。
この感覚、懐かしい。

音と絵が鮮明になったことで、一旦耳が遠くなり老眼になってから若返ったような感覚だ。
俺は、モニターを変えて10歳若返った。

最近のゲームへの向き合い方といったら、スマホでラジオを聴きながら片手間にしていて、格安のセールで買うからすぐやめるし、何億もかけたゲームを流れ作業みたいに消費していた。
その日は、ゲームでやられてちゃんとむかつけた。感情が動いた。

添加物なしのパズルかシューティングを黙々とやりたい。
喰わず嫌いしてた無料FPSも面白いのかもしれん。
ガジェットを買うと脳が刺激される。

これからゲームをする時間は減るだろう。
減って、濃くなる。
モニターの裏でカチャカチャ音量を変えるのが面倒なので、夜はヘッドホンをするだろう。ラジオを聴きながらのダラダラプレイはなくなる。
失敗して「クソ!」と子供のようにコントローラをちゃんと投げ捨て、成功すれば無意識にガッツポーズが出るぐらいの環境に戻る。
便利じゃないけど刺激のある、俺が求めていた生活だ。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。