マガジンのカバー画像

おすすめ記事・レビュー

102
ここを読んでいっこも興味がわかなければ、残念ながらぼくはあなたにとって価値がない。
運営しているクリエイター

#マンガ

すばる7月号を学校の図書室に置こう

すばる7月号を読んだ。 李琴峰さんのアイオワ滞在記が良すぎて共有したいので、ここだけでもカッターで切り取って小冊子にして全国の高校の図書館に吊るそう。 アイオワ大学で、反LGBTQの活動家が講演をすることに、大学生たちが一斉に抗議する。 コールで、アートで。それぞれのスタイルで反差別を態度で示し、近所の車はクラクションを鳴らし、武装警察まで巻き込む騒ぎ。 その一部始終をその場にいるような迫力で記す。 もちろん「楽しい」話ではないけど、日本の学校の冷めた感じを経験したから、学

【漫画レビュー】表紙だけで人生!フレデリック・ペーターズ「青い薬」

バンドデシネ(フランス語圏のマンガ)初体験でこの本を選んだのは、あまりにも濃いオレンジの表紙が、ぱっ!と目に飛び込んできたから。 日本の浮世絵はフランスで人気があったときくが、そのときにフランス人が驚いた紺色のようなオレンジだ。荒れる海にソファーが浮かんでいる。その上でほほ笑むふたり。 この表紙だけでほぼ人生。この本の語っているすべてがこの表紙にある。人生はたいへんだけど、目の前の幸福をみていきたい。遠くのことを考えると不安にもなる。 ソファーの上の男性が主人公で作者だ。

#私を構成する5つの島本和彦

逆境ナイン試合のたびに絶対的逆境に陥り、そのたびに立ちあがる野球部のマンガ。 最初から廃部。試合直前に寝ているところを踏まれて、きき腕を脱臼。チームメイトが全員用事とケガで離脱。 たたられてるかのように不幸続きの野球部だが、そのどん底から、ブラックというか、色で現すことができない地獄の練習量と精神論で突破する。 「それはそれ これはこれ!」 の大ゴマが有名だが、このセリフが出た経緯が凄い。 お互いに絶対負けられない、廃部寸前の野球部同士の試合。 正々堂々と、悔いのない勝

「迷走戦士・永田カビ」のタイトルだけをつまみに祝杯をあげる!

新作が出るたびにレビューを書いている永田カビさんの新連載が、「webアクション」で始まった。 「迷走戦士・永田カビ」。他にも気になる作家が集まるが、まずはこのタイトルだけで嬉しいって記事を書くぞ!! 連載に先駆けて「永田カビ×福満しげゆき」対談が設けられている。 このふたりは共通点ができた。 「福満しげゆきのほのぼのゲームエッセイマンガ」 「迷走戦士・永田カビ」という、タイトルに作者名があるマンガを描いていることだ! 「鳥山明のヘタッピマンガ研究所」とか、大御所が名前をタ

永田カビ「一人交換日記」

前作を闘病記とするなら、今作は共感を呼びかけるのではなく、現状そのままを描いた日常エッセイ。 作品を家族が理解してくれそうにない。孤独で泣けてしょうがない。呼吸が苦しい。 家族との意思疎通がうまくいかず、鬱というフレーズを簡単に使った父に怒り、部屋でひとり暴れる。 ヒット作を出した直後とは思えないボロボロの精神状態だが、観察力のアンテナはONのまま。部屋で暴れて「いなりずしの酢飯が傷にしみた痛み」、その一瞬を逃がさず描き残す。 前作で異様な迫力を見せた、「過食時にかじった、

「プリニウス」9巻

漫画「プリニウス」で、言葉を喋れず引き取り手のいなかった奴隷の女が、読み書きの勉強をはじめた。 プリニウスはぜいたくな漫画。 古代ローマの学者の旅と、皇帝ネロの政治の話が並行して描かれている。 ぼくのように人間関係が完全に理解できてなくても、描き込まれた世界や、皇帝をめぐる不穏な空気がじわじわ沸騰してくるのがつたわる。 実際にプリニウスの研究成果に残されているらしい?半魚人やミノタウロスを、現代日本の漫画家がどう解釈して、どんなビジュアルで、いつ出すのか、といった楽しみも。

【マンガレビュー】変えのきかない顔面力。山田芳裕「望郷太郎」1

20年代に初めて買ったマンガ「望郷太郎」。 オビの文句は「人間五百年」だった。 「へうげもの」の織田信長が人間五十年だった。そのつぎに描くのは、太く短く生きた男じゃなくて、時間をかけて生きることを選んだ男だ。 山田芳裕作品は、スポーツゲームの隠しキャラに「デカスロン」の主人公が出たらしいとか、「度胸星」がメチャクチャ面白いのに打ち切られたらしいとか、本屋で「へうげもの」が視界に入ってくるとか、ニアミスを繰り返してきた。 イメージは、他人が手を出してないジャンルを、パワーで切

永田カビ「現実逃避してたらボロボロになった話」ふと描きたい、と思った愛しい「この事」とは

永田カビは、はじめてのレズ風俗体験漫画に手首傷だらけで登場してから、ずっと性と自分と漫画と取っ組み合いながら、心の病をさらけ出して生きている漫画家だ。 新作「現実逃避してたらボロボロになった話」は、親に依存した生活やありのまま思ったことを公表して親を泣かせ、罪悪感と創作の苦しみを忘れさせてくれる酒にやられ、ついに膵炎で運ばれたところから始まる。 膵炎の痛みは、体内でチクチクする「ウニ」、吐き気の「胃」、「体温計」のキャラで表現されて明るい。コマが白い。 心の痛みを表現し

ねえねえ、生理ちゃんの腕はどうしてそんなに太いの?

それはね、女の腹をぶん殴って、来ない人に痛みを「見せる」ためだよ。 いわゆる擬人化ブームに乗っかって「なんと生理まで擬人化!」的な話題作りじゃないんだよ。 僕の愛読しているコミックビーム連載、小山健「生理ちゃん」が映画化です。 生理の可視化という、とっぴな設定で男女のすれ違いや仕事論を描く。 リゾート地に旅行に来たカップルに「性欲くん」がやってきて、つまらないいざこざを起こしたり、弱さを見せない立ち仕事の女性に「生理ちゃん」が迫る。 外から見れば、機嫌が悪くなっただけの人だ

学校の図書室にあった『学研まんが できるできないのひみつ』の堂々としたまんがっぷり!

1976年の「学研まんが できるできないのひみつ」が電子書籍化。ぼくが生まれる前から、卒業後もたぶん長いあいだ、学校の図書室にあったまんがだ。 文章だけの本が並ぶ学校の図書館に、学研のまんがシリーズと、はだしのゲンだけが居てもいいことになっていた。 「おいらは、まんがだぞ!まんがは勉強になるんだぞ!」と胸を張って、本棚に並んでいた。 何でもためしてみる「やっ太」と、すぐに否定する「デキッコナイス」の漫才のような掛け合いと、ガールフレンドのアララちゃん、ものしりの「けつろん