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おすすめ記事・レビュー

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ここを読んでいっこも興味がわかなければ、残念ながらぼくはあなたにとって価値がない。
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#読書感想文

【読書】内田裕也✕モブ・ノリオ JOHNNY TOO BAD

硬派でいく。ウジャジャけた人間は登場しない。 変なかたちの本を読んだ。 内田裕也の対談集「ロックントーク」と、モブ・ノリオの小説「ゲットー・ミュージック」 二冊をくっつけてグラフィティや顔写真で飾って、上からでかいカバーでくっつけた「JOHNNY TOO BAD」。 内田裕也がそもそもよく分からない。政見放送がネタにされていたのと晩年の樹木希林さんとの謎の夫婦関係でしか知らない。 その人を語るのに、モブ・ノリオというまたよくわからない人を介する。 わからん×わからん

ヤラセ番組の汚名をすすげ!クレイジージャーニーVS「酒を主食とする人々」

高野秀行「酒を主食とする人々」を読みました。 この人の本は全部いい。 「面白い」と「人生観変わるほど面白い」と「ある意味おもしろい」の3種類しかないので、全部買ってもいい。 今作ではテレビ番組「クレイジージャーニー」のスタッフとともに、エチオピアの「酒飲み民族」を探す。 子どもも妊婦も、酒ばかり飲んでいるのに健康的にすごしているという、特殊なのに今どきネットの情報が全く出てこない民だ。 旅の目的は、謎の民族と接触して、酒ばかり飲む生活を体験すること。 そして、厳しい時間と

元旦にカラマーゾフの兄弟・読破

カラマーゾフの兄弟5巻が元旦に届いた! 年賀状が一通も届かなくて、これ一冊がポストに入っていた。 5巻はエピローグと、ほとんどが解説だったので、本文は…全部読んだ! ハタチまでマンガしか読んだことなかった僕が、 ドストエフスキー、カラマーゾフの兄弟全5巻、読了! 「罪と罰」は下巻に入ったところで止まったから、初めてドスエフ読めた。 他の翻訳では無理だった。亀山訳だから読めた。 あと、しおりに人名がフルネームで書いてるから読めた。 ロシア文学は同じ人を苗字や名前やあだ

龍が如く外伝とワンピースの前に、原点の「宝島」の宝は何だったのか読んでみた

ワンピースが終盤だったり、龍が如く外伝のテーマが海賊だったりするじゃないですか。 この手の話は「伝説の宝とはいったい何なんだ!?」ってナゾが重要だけど、そもそも最初の「海賊の宝の地図もの」の宝箱には何が入っていたのか。 原点を知りたくてスティーブンスン「宝島」を読んだ。同作者の「ジキルとハイド」は読めなかったけど、訳も新しくて少年の心で読めた。 原点じゃなかった。 この本以前にも海賊伝説は山ほど、いや海賊に山のたとえはダメか。・・・押しよせる波の数ほどあった。宝島はそれら

【読書記録】ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」

文学を学んでいないから、ちゃんとした文章の書き方も、おさえておくべき古典も知らない。 ブックオフでそれっぽいオーラを出してたら「さては古典やな」というのが僕の文学に対する姿勢です。 だから英文学で重要な、ヴァージニア・ウルフという方も全く存じ上げず…。 すごく良かった。 今思えば、ドストエフスキーを読んでたときは無理してた。通好みとされてる音楽や味付けを、わかったフリじゃなくて、 「あ!これ好き」と思ったし、小説を読んでる充実感があった。 ふつうの小説だと主人公の行動と心

【読書日記】「三四郎・それから・門」

「それから」を読んだ。学校で「坊ちゃん」を勧められても読まなかった記憶があるのに、大人になって、自分で読みたいから自分で稼いだ金で文庫本を買って、1日2行しか進まない日もあるけど、少しづつ、自分で読みたいから読むことができた。 読書感想文でもない、作者の考えを読み取るでもない、ただ100年前の人の言葉使いとか、文章が好きだから読んだだけ。 この時代とは人生の長さも、きいてる音楽の速さも違うのに、心地よい会話のリズムが同じなのはなんでだろう、と思いながら。 「それから」は

すばる7月号を学校の図書室に置こう

すばる7月号を読んだ。 李琴峰さんのアイオワ滞在記が良すぎて共有したいので、ここだけでもカッターで切り取って小冊子にして全国の高校の図書館に吊るそう。 アイオワ大学で、反LGBTQの活動家が講演をすることに、大学生たちが一斉に抗議する。 コールで、アートで。それぞれのスタイルで反差別を態度で示し、近所の車はクラクションを鳴らし、武装警察まで巻き込む騒ぎ。 その一部始終をその場にいるような迫力で記す。 もちろん「楽しい」話ではないけど、日本の学校の冷めた感じを経験したから、学

SF小説の未来予知が間違っているとkawaii【読書記録】

アーサー.C.クラーク「火星の砂」を読みました。 1950年ごろ書かれたもので、SF大家の長編2作目になります。開拓中の火星を訪れた作家の物語。 初めての宇宙旅行で離陸に緊張する主人公、「水鉄砲式」で水分を補給していたが重力が戻ってくると嬉しくなってコーヒーを器に入れて飲みたくなる船員。つい持っていたものを落としてしまい、いけねえ重力あるんだった重力重力、ってなる感じ。 火星探索の前に「無重力あるある」がたくさん出てくる。 70年以上も前に書かれた小説で、火星に生き物がい

ラッタウット・ラープチャルーンサップ「観光」今年ベスト短編集!

タイ系アメリカ人の短編集。ハードル低かったのもあるけど、すごい良かった!誰かにオススメの短編聞かれたらこれにする! こんなのとの出会いがあるから、ブックオフもたまには行くもんだな! 「カフェ・ラブリーで」 お兄ちゃんに連れられて初めて悪い遊び場に行くはなし。 お兄ちゃんについて行ったら大丈夫、と思っていたらシンナー吸いだしてわけわかんない状態になって、一人で取り残された少年が女の人にからかわれながら強がる感じが痛々し愛しい。怖いんだけど、エロいやらワクワクするやらで、どうす

「つけびの村」が他人事とは思えない

限界集落で行われた連続放火殺人事件の犯人を取材したノンフィクション「つけびの村」が、まあ怖かった。恐怖を与えるために書かれた本じゃないのに、不安になるツボを刺激する内容だった。 それは、ぼくが電車内で叫んでいる「どうかしてる人」を見ていられないのと関係がある。 そういう人が、向こう側の人間とは思えないのだ。 「つけびの村」では、連続放火殺人をおこして、殺害予告のような川柳を残した犯人の印象を聞いてまわる。 生まれも育ちも凶悪、理解できない悪人なら単に憎めばいいけど、昔の印象

【読書】すっぽん鍋に語彙を失い、追撃の焼きすっぽんで頭のネジが飛ぶ。獣系ワイルド飯テロ【肉とすっぽん】

平松洋子「肉とすっぽん」を読みました。 牛、鴨、鹿、羊、鳩、くじら。動物たちを解体して料理している人たちに取材したルポ。 こういう内容って、どうしても「生き物を殺して食っていいのか」要素が多くなるけど、それがそんなにない。動物たちはみんな与えられた生を全力で動き回り、人間たちは人生をかけて磨いた技術で、臭みをのこさず最高の肉にするため真剣に挑み、それを取材する平松洋子の言葉の選び方は肉の旨さと食肉の歴史と料理人の歩みを最大限に上手く記す。 それぞれの全力がバチバチにぶつかっ

【読書】太田光をぎゅ〜っと原稿用紙1200枚に圧縮したら。 笑って人類!

爆笑問題の太田光書き下ろしSF長編娯楽小説「笑って人類!」を読んだ! 完全なネタバレはしませんがある程度内容にふれて語りたい! お笑い芸人がお笑い以外のジャンルで、ふだん表に出さない過去や暗黒面をぶつけてくるパターンがある。 ビートたけしが北野武になるんだら、太田光が超絶ダークな内容できてもおかしくないと身構えて買ったのに、出てきたのは愛するSF、ギャグ、ミステリー、オタク文化への愛もある、娯楽大作。近い系統でいえば「三体」だった。 「フロンティア」と「ピースランド」。

地図禁止!北極縛りプレイ「狩りと漂泊」 #読書記録

映画やマンガのネタバレには注意しないといけない時代ですが、結末までネタバレしてから準備しないと命にかかわることもあります。それが登山。 角幡唯介「狩りと漂白」探検家でライターの作者が計画したのは、未知の場所にたどりつくための旅ではなく、自分が知らない土地に地図無しで踏み込む旅。 道中の予定が立てられない、自分の位置を見失う旅は、軽いハイキングでも命にかかわる。 あえてその土地を初めて訪れた原始の民に近いシチュエーションにすることで、本当の自然の凄みや、難所を克服する感動を

【読書】お嬢さま、オムレツ作りで熊撃ちのパートナー志願!「夏子の冒険」

男たちの誘いを断り続けてきた「お嬢様」がハンターの青年に出会い、あたくしも人喰いグマ退治に付き合いますわと言い出し、お母さまおばあ様大慌て。 「お嬢さまキャラ」ものです。 金持ちの家に生まれただけの「富裕層」なだけではなく、この人の言動がいいからページをめくらせる、そういうパワーをもっている。 2022年でお嬢様キャラとして名を挙げたのはバーチャルユーチューバーの壱百満天原サロメ嬢という人なんですが、そこからだいぶ源流へさかのぼると三島由紀夫「夏子の冒険」にたどりつく。