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『BYWAY後志』第29号発売 「北海道浜ことば」を完全収録

 2024年春、余市町在住の方言研究者、見野久幸さんからメールが来た。方言を歩いて調査していた頃のメモを全24話にまとめ直したので、週末に2話ずつ送りたいが、かまわないかという。私と見野さんは、小著『地方史のつむぎ方』のインタビューで会った2022年からの縁なので、それほど古い付き合いではない。しかし、ともに、足を使って人に会って、その結果をまとめるという仕事をしてきたこともあって、話題が合う。ぜひ送ってくれとお願いした。
 
 初回に送られてきたのは、「『あずきまま』と『おこわ』」と「『かまどかえす』と『かまどもつ』」の2話である。
 
「あずきまま」は赤飯のことだろうと推測はできるが、実際に使っているのを聞いたか、と言われると、心もとない。「おこわ」はもち米を使った炊き込みご飯の意味で私は使っているが、見野さんによると、年配の女性のなかには赤飯の意味で使う人がいるという。また、明治時代の余市では赤飯のことを「ふかし」とも言っていたが、現在では使われなくなったらしい。
 
 「『かまどかえす』と『かまどもつ』」の冒頭を以下に引用する。
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「かまどかえす」、「かまどもつ」の意味を理解している若者はどれだけいるでしょう。わずかになったのではないかと思います。後志の海岸地域で聞き取りをおこなったとき、積丹の余別で「その網元もすっかりかまどかえしてさ」、岩内で「息子もかまどもって漁師やってる」と出てきました。後志に限らず、北海道、特に海岸地域ではどこでも聞かれた方言です。
 秋田方言の『鹿角方言集』(1936) に「かまどかえす」、岩手方言の『御国通辞』(1790) に「かまどもつ」の記述があるように、「かまどかえす」、「かまどもつ」は青森県、岩手県、秋田県の北奥羽地方から入ってきた方言です。
 「かまどかえす」は倒産すること、「かまどもつ」は結婚することを意味します。本来「かまど」は物を煮炊きする鍋や釜をかけるところです。
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 1000字ほどの文章の背後に、後志を中心に北海道や東北地方で人に会って、その言葉を記録してきた経験、中世や近代・近世のさまざまな文献を読んで蓄えてきた知識がみえる。「うちは単身赴任で、娘が東京の大学に行ったから、かまどが3つもある」といったセリフは現在でも聞く。しかし、どうして「かまど」という言葉を使うのか、歴史的経緯を踏まえて説明できる人はほとんどいないだろう。
 
 毎週末に送られてくる方言エッセイを楽しみにするようになった。「いずい」「かまどかえす」「からがぐ」「こちぱらしい」「ちょす」「へらからい」など、聞いたことのある言葉も、まったく知らない言葉も、見野さん流の解説によって理解が深まる。このエッセイを受け取っているのは見野さんの東京の友人と私だけらしい。しかし、知り合いが読んでいるだけではもったいない。後志の人や北海道の人たちにも知ってもらいたい。
 
 そう考えているところに、『BYWAY後志』を編集する久須美英男さんから連絡があった。29号に寄稿してくれる人の心当たりがないかという。それなら、見野さんのこの方言エッセイを載せてくれと頼んだ。久須美さんも一読して、これはすごいと感心し、ぜひ載せたいとおっしゃった。
 
 その雑誌が2025年1月31日に発刊された。「余市町在住の方言研究者のフィールドワークから 『北海道浜ことば』」が全12ページにわたって掲載された。当初は11ページしか確保できず、どうしても22話しか載せられなさそうだったのだが、最後に空いた1ページに2話を詰め込み、以下の24話を完全収録できた。
 ・「あずきまま」と「おこわ」
 ・「いずい」
 ・「おっかない」
 ・「かまどかえす」と「かまどもつ」
 ・「からがぐ」
 ・「けんけん」と「てんてまっこ」「すててんこ」
 ・「こちぱらしい」
 ・「こわい」
 ・「ちょす」
 ・「はく」
 ・「へらからい」
 ・「ぼたもち」
 ・「なげる」
 ・「まかたしない」
 ・「めんこい」
 ・「ゆるくない」
 ・「なすび」と「なす」 
 ・高島に残存の新潟から伝播のことばづかい
 ・鼻濁音の動き
 ・「ゆ」音の「よ」音発音
 ・「べ」と「べし」
 ・「ぶり」の成長過程呼称の方言
 ・「しばく」
 ・「てっくい」
 
 私も「東海丸が沈んだ町へ」と「山村・漁村・山林を描く」を寄稿した。「東海丸が沈んだ町へ」は、2008年から調べている寿都空襲の続報である。父上が乗っていた船が寿都で沈んだことを知った大阪の方から連絡をいただいたことをきっかけに、父上の足跡やご家族の戦後をまとめることができた。東海丸の写真をあらたに発掘できたことにも意義があった。「山村・漁村・山林を描く」は、私の父親が半世紀にわたって描いてきた油絵やペン画を同題の画集にまとめたことを書いた。後志の絵が一枚だけあったことから、この雑誌に書かせてもらうことができた。
 
 ほかにも、「岩内駅前通り 喫茶さぼーる物語」(枝元るみ)、「惨劇に見舞われた馬鈴薯農家の一家、そして犯人」(下山光雄)、「ライオン像から見る旧第一銀行小樽支店」(駒木定正)、「スキーヤーの聖地がスキー製造の先進地だった頃」(松田裕子)など、読み応えのある寄稿が掲載されている。

 一冊1100円。 販売実績の上がっていない道の駅や書店への配本を取りやめたので、購入希望の方は事務局にご連絡いただく方が確実に入手できます。BYWAY後志事務局(札幌市中央区南23条西12丁目1-4-503、電話011-531-0910、メール:byway@h.phoenix-c.or.jp)まで。目次は公式FBページでご確認ください。
 https://www.facebook.com/groups/787315391641773/posts/2309750392731591
 

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