【覚書】母はいつだって片想い
朝、雨が降っていた。
息子は駅まで自転車で行くのだが、雨の日はバスで行く。
我が家は山の上にあり、バス停までも10分かかる。
玄関で息子が靴を履くのを見ていたら、
息子が「あーもうっ!!!!」と苛立った声を出す。
「だから、この靴濡れるから嫌やって言ったやん!!!」と。
そういえば数日前も雨が降って、そんなことを言っていた。
この靴は水が染み込みやすいとかなんとか。
「嫌や。もう履きたくない。」
えっ?
イヤイヤ期の幼児のようなことを言うやん、君。
「え?他の履く?あったかな?」と私。
「もういい、自転車で行く」と言い出す息子。
「あかん、あかん。危ないやろ。」
「だから、前も言うたやん!この靴濡れるから嫌やって!もう!」
ああ、言うてたね。確かに。でも買いに行くタイミングなくてさ…
ていうか、とりあえず今この出る瞬間に言っても何も解決しないじゃないか。
「パパのやつ、履く?なんか他に履くやつないか見るわ。」と、
下駄箱を漁る私。
振り返ると、もう息子はいなかった…
いつもの靴で、歩いてバス停へと向かった模様。
行くんかーい…
なんだい、なんだい。
黙って行っちゃってさ。
ていうか、なんでママにだけそんなに偉そうなのさ。
そら、確かに前にも聞いてたよ。
にしても出る瞬間にそんなに苛立った声を出されてもさ。
ていうか朝起きた瞬間に雨が降ってるのを見ても
君は何とも思わなかったのに、
出る瞬間に靴はいて思い出して、それを私に当たり散らされても…
という言葉を全て飲み込んで、
その後、ネットでレインシューズなどを検索する。
こんなんどう?という気持ちを込めて
スクショしたものを息子に送付する私。
既読スルー。
なんだい、なんだい。
授業参観も、音楽発表会も来てほしくなさそうだったけど、
あなたとの会話の糸口になるかしら、とか
学校での様子が少しでも見られるかしら、とか
周りの子とどんなふうにしてるかしら、とか
思って、バスやら電車やら乗り継いで行ってるのにさ。
帰ってきたら、スンと済ました君に、
「この曲良かったね」とか「学年が上がるとやっぱり上手くなるね」とか
「○○くんと話してたね」とかとりあえず話しかけて、
始めのうちは「知らん」だの「さあ」だの言ってた君に
懲りずに話しかけ続けたら興が乗ってきたのか、
「○○がさあ、」とか話しかけてきてくれたら、
やっぱり行って良かった〜なんて、思ったりさ。
なんだい、なんだい。
笑って話しかけてくる内容は大体漫画の内容で、
今、図書館で「ヒロアカ」を借りてるから、
授業参観に電車で行ったあと、本当ならバスで自宅近くまで
帰ってくるのに、ちょうど真ん中にあるから、駅から歩いて図書室まで
行って取りに行ったりしてるのにさ。
なんだい、なんだい。
ちっちゃい頃は「ママ、ママ」って言ってさ、
私が君を預けてどっかに行こうもんなら、今生の別れかよ、って思うぐらいの
勢いで絶望的な顔をして泣き叫んでたのにさ。
なんだい、なんだい。
ご飯作ってたら、じーっと見つめてくるから、
「な、なに?どうしたん?」て聞いたら、
「好きだから見てるの」って真顔で答えてくるような
かわい子ちゃんだったのにさ。
なんだい、なんだい。
夕方、バスで行った日には、帰りは迎えに行くんだが、
パパが車を修理中のために、いつも私が使う車に乗って行ってしまい、
迎えに行くことができない旨を連絡したら、
「意味わからん」と一言返信。
え?
説明したよね?どこらへんがわからないんだよ。
電話して、「だから、パパが車使ってるからママは迎えに行かれへんけど、
もうすぐ帰るみたいやし、迎えにきて貰えば?
駅で待ってもよければ、やけど。
どうする?バスで帰る?どうするの?」と聞いたら、
しばらく無言の彼。
数秒のち、ブツッと電話を切る彼。
え?
切った?
何も言わずに切りました?
もう、知らんからな。
それから、待てども待てども音沙汰のない息子。
もう、知らん。
もう、知らんからな。
と思いつつ、位置情報で確認する私。
あ、移動した。あ、駅出た。
え、なにしてんねやろ?
あれ?動かんぞ?
あれ…
とヤキモキしていたら、
夫と共に帰宅した息子。
笑顔で、
「パパと一緒に帰ってきたんやね?おかえりー」と声をかけるも、
軽くスルーされる。
おいっ。
パパに聞けば、息子から電話がかかってきたから
迎えに行ったらしい。
なんだい、なんだい。
パパには「はい」とか「わかりました」とか
言うくせにさ。
(夫に言わすと、それは他人行儀で寂しいらしい。そりゃそうだ。)
なんだい、なんだい。
私のことだけ雑に扱ってさ。
なんだい、なんだい。
でもね…
帰ってきてから、ずーっとムスっとしてて、
「今度濡れても大丈夫な靴買いに行こうか」
「レインシューズ買う?」とか話しかけても
「いらん」「普通のでいい」とかそっけなくて、
横で見ていた夫に不憫がられていても、負けじと話しかけ続けていたら、
夜寝る前になって、そっと
「ごめんなさい」と言ってくれた君。
「行ってきます、言わずに黙って行ってごめんなさい」と。
いいねん、いいねん〜!!!
ダメな彼氏に振り回されるだめ女状態を続けてはや10年以上。
束縛彼氏からの
今やモラハラ彼氏に耐えるだめ彼女のような扱いを受けているが…
だめだ…抗えない!!!
「これが、反抗期かなあ…なんかイライラしてしょうがない時があるんだよなあ」と呟く息子に、
「ホルモンのせいやからしゃーない、しゃーない!」と言っている私。
これが反抗期ってやつなんだろうか?
いや、振り回され具合で言うと、
昔から結構変わらないぜ?
神経質で繊細なところのある息子には
割と昔から当たり散らされることが多かった。
え?全然、序の口だけど?と思いながら、
彼自身が反抗期かなあと呟いているので、そういうことにしておこう。
生まれてからずーっと片想いでも構わない。
一方通行で構わない。
たに笑いかけてくれたら天にも昇る思い。
それまでのイライラも苦労も全て一瞬にして忘れちゃう。
友達と楽しそうに話しているのを見られたら、それで満足。
母は常に片想いでいいのだ。
たまーに、
「あれ?両思いかもしれへんな?」と勘違いさせてくれたら
それでいい。
今日も私は
あなたに片想いです。