【読書の思い出】カズオ・イシグロ
初めて読んだのは、確か「私を離さないで」。
正直に言って、衝撃を受けた。
静かなその文体なのに、それはサスペンスであり、ミステリーであり、SFだったから。
具体的な説明がなく、そのまま当然のように始まる世界観はそれが「現実」のように感じてしまう。
それでいて、胸を掻きむしるように心情の吐露もある。
イギリスに行ったことのない私は、そんな世界がまさか本当にあるのでは?と感じてしまうほどに。
いやいや冷静に考えろよ、世間知らずだな、と夫にはよく言われる。
大体、24時間のうち9割は夢の中にいるような私だ。
仕方ない…?え?
次に、「日の名残り」
これもまた、ただ老執事の昔を懐かしむ物語かと思いきや、そこには、静かな文章ながらのどんでん返しがある。老執事の主観で語られるにもかかわらず、そこには客観性が潜み、少し皮肉めいた視線も混じる。
主観で語られるのに、どうしてそれが可能なのか分からない。不思議だった。
私は原文が読めないので、その微妙なニュアンスを日本語に落とし込めていることに、訳者の方にも拍手を送りたくなった。
カズオ・イシグロさんを読んでいると、原文を読んでみたいなぁ〜と思いつつ、まだチャレンジできずにいる。
原文を、理解できる自信もないけれど。
同じような感じで、唸らされたのが「浮世の画家」。
こちらも「主観」なのに「客観」という不思議な体験がある。
こちらは日本が舞台。
日本の風景を海外で育ったカズオイシグロが描くという、これもまた主観と客観が入り混じったような不思議な感覚。
どこか別世界にいるような、それでいて、戦後の日本を私自身体感しているわけではないので、またそこに差異がある。
カズオイシグロの作品世界は、いつも不思議な読書体験ができる。
一度断念してしまったが、再チャレンジしたいのが「充たされざるもの」。不思議すぎて、予想はついたものの、読んでいると足場を失いそうなふわふわした感覚に襲われて途中で断念してしまった。
でも、もう一度チャレンジしたいなと思っている。
他にも何作か読んだが、スラスラと入り込めるものもあれば、時間をかけてやっとこさ読めるものもある。でも全ての作品が頭の中で妙に映像化されて残るのが、私の中での「カズオイシグロ」だ。