映画『あの日々の話』感想
面白かった。
演劇見ている気になった。演劇に映画要素を加えたら、無敵になるんだと思った。それぞれの良いところが生かされた映画だった。
【カラオケオール】
お金がない大学生は、終電がなくなるとカラオケで徹夜して始発を待って帰るのが当たり前みたいな風潮がある。サークルに入れば誰しも一度は経験する。たった一夜、ほんの数時間一緒に過ごすだけなのに、睡魔との戦いの中ではこれまで巧みに隠されていた素が表面化してくる。本能が剥き出しになって初めて露になってしまう人間性。加えて深夜の変なテンションが襲ってくる。恐ろしく濃密な魔の時間。それがオケオール。
【あらすじ】
とある大学のサークルで代表選挙が行われた夜、二次会のカラオケボックスに流れたが肝心の新代表は同じサークルの女子と一緒に消えたらしい。前代表のOBやOGと現役学生らが残り、女子と男子に別れてそれぞれ盛り上がる9人。男たちはコンドームを配布し「もしかしたら今日ヤレるかも」と浮かれ出す。こっそり覗いてしまった女子学生のカバンの中からコンドームが見つかったことで一気にテンションは爆上がり、それぞれの相手まで勝手に決めて協力体制を敷き暴走していく。一方女子たちの部屋では、1年生がOGと新副代表に呼び出され、同じ1年の友人にOGの彼氏に手を出さないよう言っとけ、ということを回りくどく説明して反発にあう。楽しかったはずの大学生活が、サークル代替わりの一夜に崩壊の危機に見舞われる。
【感想】
始まり方も面白かった。
誰がメインなのかわからないまま歩行者目線の映像が続き、カラオケボックスの部屋にカメラが入ってから物語は動きだす。
オケオールは様々な人間模様を垣間見せるとは思っていたけどこの映画は。
たった一晩のうちにパワハラ、マウンティング、世代間ギャップ、人間社会のあらゆる縮図を描き出していく。
いやー、それにしても一サークル内に、こんな嫌な人間たちが集結するなんて。
男5、女4の謎サークルは、結局何のサークルかわからないけれど、メンバーの体格からいって体育会系じゃないし、文化系だなとわかるけど、おっさんまで居るから本当に謎。でもキャラの異様な濃さからやっぱり演劇サークルなのかな。
登場人物の誰一人感情移入できないし、誰一人魅力的な人物が居ないのに共感しまくる。自分は絶対にこんな人間ではないと反発しつつも、出てくる人物すべてにいちいち「わかるー、こういう奴居る!」と頷ける。男子の悪ノリも、女子の陰湿さも誇張されてはいるだろうけれどこのシチュエーションにも既視感ハンパない。
大学生独特のノリってある。小中高時代とは違い、ダイナミックに距離を越えて地方から都入りしてくる人も混ざるからか、また今まで真面目にやってきたのに突然「大学生」という立場に浮かれ大学デビューしてしまう人がいるせいか、まあたいていの大学生がどっちかに属しているから、たいていの人が無理している。
中学時代も、思春期特有の周り気にしすぎな自意識過剰期が訪れるけれど、大学は己を見失いがちな第二波。周りから浮かないように必死になっている。ちょっと見ていられない。どうして大学生は自然に生きられないのか。自分を装おうとするのかな。
この中では太賀さん演じるカラオケ店員だけが唯一の救い。閉店時間にはしょうもないところまできていたサークル内の雰囲気も、はたから見れば「なんか、いいっすね」。オケオールでちょっと羽目を外しただけの大した出来事じゃなかったのだ。大学生じゃない人が一番まともってところも皮肉が効いている。
玉田監督は、「痛いことを楽しんでください。どれだけ痛々しいかによって面白さが決まる映画です。」とインタビューで答えられていたようだが。
映画はめちゃくちゃ面白かった。だが痛々しく身に染みて、再度見たいと思えない。懐かしく思い出せるのは、いつになるだろう。
イタくて、ウザくて、重くて、忘れたい「大学時代の話」。
共感しまくるけど、なんか恥ずかしい「あの日々の話」。