“The Cat's Table” by Michael Ondaatje (7)
“The Cat's Table” by Michael Ondaatje (7)
(7)
僕は興奮と目まいで震えていた。
突然、僕とエミリーの間に深い隔たりがあり越えられないと感じた。
それはあたかも遠くの砂漠が船に近づいて僕に触れてくるような感じだった。
しかし、それはどこから来たのだろう。
そしてそれは喜びなのか悲しみなのか。
僕は何か根本的な、例えば水、のような何かが欠けているような感じがした。
僕はトレーをおろして、またエミリーのベッドに上がって行った。
僕はここ数年間の孤独感をそのとき感じた。
僕が家族とガラスで隔てられて存在していたかのような孤独感を。
そして今、僕は、お母さんが3,4年住んだ、イギリスへ行こうとしている。
お母さんの事はもう忘れてしまった。
エミリーのベッドで、紅海や砂漠から隔絶して、僕はベッドの上で震えていた。
彼女は僕をそっと抱いて、僕たちの間に有る緩やかな空気を包んでくれた。
僕の熱い涙が彼女の冷たい二の腕を伝わって落ちた。
僕を取り巻き支えている小さな防御物はもはやそこにはなかった。
「それは何?」「わからない」
たぶん僕らはその時そう言ったが覚えていない。
僕の呼吸が彼女の呼吸を鎮め、僕は少しの間眠りに落ちたに違いない。
そして、彼女がコーヒーカップを取るために手を伸ばす動作で目を覚ました。
すぐに彼女の首に触れている僕の耳を通して彼女がコーヒーを呑みこむ音が聞こえてきた。
彼女のもう一方の手は、有りもしない安全を保障するかのように、まだ僕の手を握っていた。
エミリーの部屋を出た後、(その後はこんな親密な関係は二度となかったんだけど、僕はいつも、地下の水脈や石炭や銀の鉱脈のように、彼女とつながっているのだとわかった。
僕はあの時以外、他人と手をつないだ感覚や、眠り方覚めた時に嗅いだ体臭を経験したことはなかった。
僕はあの時以外、僕がうかがい知ることのできない方法で僕を興奮させるような誰かの横で泣いたことはなかった。
多分それは偽りでないとすれば、エミリーが僕にくれた、彼女の動作からは何もうかがい知れない、偶然の親切でした。
「もう行きなさい」と、彼女は言い、ベッドから立ち上がって、後ろ手にバスルームのドアを閉めた。
改めて、2日たったヘクター卿の遺体がすぐに海に放たれると言う噂が立った。
船長は地中海に入るまで待ちたがったが、全権を有するヘクターの未亡人が緊急の、内輪の水葬を主張したのだ。
その為、一時間以内で最終儀式の時間と場所をみんなで探した。
客室係は葬儀の行われる船尾をロープで囲んだが、見物人はすぐにロープの後ろに集まって来て金属の階段は人でいっぱいになった。
上部デッキから見下ろしているものもいた。
あまり関心の無い数人の人々は喫煙室の窓から見ていた。
僕たちのほとんどが初めて見るヘクター卿の遺体は見物客がしぶしぶ場所を開けた狭い通路を運ばれていった。
その後ろを、ヘクター卿の未亡人、娘、医師団(そのうちの一人は村の盛装をしていた)、船長が続いた。