“The Woman” by Doris Lessing (7)

“The Woman” by Doris Lessing (7)
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「そうだ」ヘル・ショルツが言った。
しかし彼は動かなかった。
彼はしばらくの間、テーブルの上で指輪をコツコツ叩き、大尉はその音に歯をくいしばって耐えていた。
ヘル・ショルツは笑っていた。
それは新しいドラマの傾向を告げる笑いだった。
明らかに。
そして明らかに大尉が先に不同意を唱えた。
彼は思っていた、全体として、騒々しいやつめ、騒がしすぎるし無作法だ。
彼は耐えきれず暖かく静かだろう、部屋の中をちらりと見た。

 ヘル・ショルツは「私はいつもここに来ることを楽しんでいたのです。いつもここに来ているのです。」と言った。

 「そうですか?」と大尉は手がかりを見つけて聞いた。
かれはヘル・ショルツが突然ドイツ語をしゃべり始めたのを不思議に思った。
ヘル・ショルツは第2次大戦後期にイギリスに収容されていた時に学んだ素晴らしい英語を話していた。
フォースター大尉は既に彼の英語をほめていた。
彼のドイツ語はそれほど流暢ではなかった、絶対。

 しかしヘル・ショルツが彼自身の理由で自分自身の言葉をしゃべっていた。
しかも、人が大声だと思う以上に大きすぎる声で。
フォースター大尉が彼を見て、不思議に思い、気遣った。

 「私にとってこの保養地に来ることは特別の楽しみなんです、」とヘル・ショルツが、まるで部屋の中の耳の不自由な人に聞かせているように、「というのは、私には幸福な思い出があるのです。」と例の大声で言った。

 「そうですか?」フォースター大尉が神経質に聞いた。
しかしヘル・ショルツは彼の事を気にかけていないかのようにひどくゆっくりとしゃべっていた。

 「そうです」ヘル・ショルツは言った。
「勿論、戦時中は私たちにとっては手の届かないものでしたが、今は・・・」


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