「シュレディンガーの赤ん坊」チャーリー・フィッシュ(9)

「シュレディンガーの赤ん坊」チャーリー・フィッシュ(9)
https://www.eastoftheweb.com/short-stories/UBooks/SchrBaby922.shtm

             <9>

 「誰かに連絡しましょうか?」

「私の赤ちゃん、私の赤ちゃん、私の赤ちゃん。」

 医師の顔が心配そうにひきつった。
「すぐ戻ってきます、良いですか、ダニエル?」

 「だめだ!」と私は大声で言ったが、彼女は既にいなかった。
私は集中する必要があった。
私は誰かに電話する必要があった。
私はもうこれ以上悪くなることはないだろうと考えながら周りにある緊急用の引き紐を探した。
そして事はもっと悪くなった。

 見慣れた姿が、松葉杖にもたれながら私の上から近づいてきた。
私の心臓が膨れ、ドキドキ言った。
それは病院のガウンを着たエレーンだった。
私はどうしようもなく、ポカーンとして彼女を見つめた。
彼女はしょんぼりしているように見えた。

 「ああ、ダニー、」と、彼女が言った。
「私ははちょうど健康診断を受けようとしてたんだけど、あなたがここにいるって言う電話をもらったの。
ああ、あなた・・・」

 私は自分の両目をスプーンでえぐりだしたかった。
「すまない、エレーン、本当に済まない・・・・赤ん坊が ― 」
その言葉が私の喉に引っかかって、そしてしゃっくりのように飛び出した。

 「怖かったでしょうねえ。スクビンダーさんがみんな話してくださったわ。」

 スクビンダー?

 それから私は彼を見た。
モー、スクビンダーがエレーンの後ろに立っていた。
彼の両腕には、小さな奇跡が。
私のふわふわの赤ん坊。
彼は私を見てウインクした。
「私はあなたの奥さんに私の携帯から電話して、あなたが責任をもって赤ちゃんの世話をしている時に窓を割ってあなたに襲い掛かったばかな強盗について話しました。」

 エレーンは屈み込んで私の髪を撫でた。
「どうやってあなたが階下に降り、スクビンダーに助けを求めるという精神力があったのかわかりません。
というか...モーさん。」
彼女は私に皮肉たっぷりの笑いを浮かべおでこにキスをした。
私は糊のきいた病院のシーツに身を沈めた。
;まるで宙に浮いているような感じだった。

 慎重に、モーは腰をかがめて私の胸の上に赤ん坊を置いた。
少し時間をおいて彼は私の耳に囁いた。
「鍵屋が到着しました。
私は赤ちゃんを引き取って私の通話履歴の番号であなたの奥さんに電話しました。」
彼は背を伸ばし、それからもう一度腰をかがめて最後の一言を囁いた。
「鍵屋の料金の350の貸しです。それと、バッテリーの代金4ポンド99。」

<10>

しかし私は彼の言う事はほとんど聞こえなかった。
私は私の胸の上で動いている赤ん坊をじっと見ていた。
彼女は生命に輝いていた。
私は彼女を失ったかもしれないという考え、いつか失うかもしれないとい考えで、私は蝶の様なパニックに陥った。
彼女は小さくて完ぺきだったが、とても不安定だった。
私は喜びと不安で泣きながら、彼女のへこんだ泉門(頭蓋骨のつなぎ目)を愛撫した。

                 完


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