“Girl With a Pearl Earring” by Tracy Chevalier (10)
“Girl With a Pearl Earring” by Tracy Chevalier (10)
しかし、通りの終わりに近づき、家族が視界から消えた時、少ししっかり歩きやすくなり、周りを見渡した。
朝はまだ涼しく、空はデルフトの上にシーツのように平らで灰白色に|覆<おお> われていて、夏の太陽はまだ空を焦がすほどには高く登っていなかった。
私が歩いた運河は緑の混じった白い光の鏡だった。
太陽が明るく輝くのに従って運河は暗く苔の色になっただろう。
フランとアグネスと私はよくその運河に並んで座って、小石や棒切れや、時にはタイル片を投げ入れて、どれが、魚ではなく、たくさんの眼を持ち鱗手とヒレをもつ、私たちの想像上の生物に当たるか想像したものだった。
フランが最も興味深い怪物を考え出したものです。
アグネスが最も怖がりました。
私は余りにも存在しないものを思いつくことよりも、それらのありのままに物を見る傾向があったので、いつもその遊びを止めてしまった。
運河には、市場の通りに向かう数艘のボートがあった。
しかし水面が見えないくらい運河が込み合うのは市場の日ではなかった。
一艘のボートがジェロニマス橋の露店に出すために川魚を運んでいた。
もう一艘は水の上にレンガを積んで重そうに浮かんでいた。
竿で船を操っていた男が私に挨拶をした。
私はほとんど頷かず、私の帽子の端が私の顔を隠すように頭を低くした。
私は橋を渡って運河を超え市場の広場の空き地の方を見た、その時でさえ人々は仕事で、肉屋で肉を買ったり、パン屋でパンを買ったり、秤量所で木材を量り、運河を行きかっていた。
子供たちは両親のために、丁稚は親方のために、メイドはその雇い主のために、お使いに走りまわっていた。
馬や馬車が石の上でがたがたと音を立てて通っていた。
私の右側には市庁舎があり、その金箔の前面と白い大理石の表面は、窓の上の要石から見下ろしていた。
左側には新教会があり、そこは私が16年前私が洗礼を受けた場所だった。
その高く細い塔は石造りの鳥かごを思わせた。
父が前一度連れて行ってくれたことがあった。
私は私たちの眼下に広がった、デルフトの光景を決して忘れないだろう、狭いレンガの家、急な赤い屋根、緑の水路と町の門が永遠に私の心に刻まれた。
その時私は全てのオランダの町はあんな風なのか父に尋ねたが、彼は知らなかった。
彼は他のどの都市も、徒歩で2時間のハーグさえも訪れたことが無かったのだ。