“The Woman” by Doris Lessing (9)

“The Woman” by Doris Lessing (9)
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 ヘル・ショルツはそれに気付かないようだった。
「私は、あの時でさえ、後ろ向きではなかった、わかりますか?」
大尉は18歳で前向きになるのは大したことではないが25歳では・・とでもいうように肩を前に出した。

 「彼女は美しかった。」とヘル・ショルツは熱っぽく続けて言った。
「そして彼女は明らかに金持ちで、世界の女性で、彼女の服装は・・・」

 「まさにそうですね」と大尉。

 「彼女は一人でした。彼女は健康の為にここに来ていると言っていました。
彼女の夫は仕事で来られなかった。
そして私も一人だった。」

 「全く」と大尉は言った。

 「その年齢でさえ、その事も展開に驚かなかった。30歳の女性、彼女よりずっと年寄りの夫、そして彼女は美しく、知性的だった。
ああ、しかし彼女はすばらしかった!」
彼はほとんど叫んで、ローザの背中に向かって昔を回想しながら彼のグラスを飲みほした。
「ああ・・・」彼は激しく息をついた。
「そして今私は言わなければなりません。そのすべては充分良かったが今はもっと良いのです。聞いてください。
一週間が経ちました。そして何と言う一週間!私は今までにないくらい、彼女を愛したのです。」

 「まったく」と、そわそわしながら大尉は言った。

 しかし、ヘル・ショルツはそれを無視して、「その後、ある朝私が目を覚ますと、私は一人だった。」と言って、肩をすぼめてい呻くように言った。

 大尉はヘル・ショルツが彼自身の楽しみの心によって連れ去られているのを見て取った。
この話はもう半分ローザのためだけに存在した。
その豊かで劇的なうめき声、ヘル・ショルツはまるで劇場にいるかのようだ、と大尉は居心地悪く思った。

 「しかし、そこに一通の手紙がありました、それを読んで・・・」

 「手紙?」突然、大尉が口を挟んだ。

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