「シュレディンガーの赤ん坊」チャーリー・フィッシュ(6)
「シュレディンガーの赤ん坊」チャーリー・フィッシュ(6)
https://www.eastoftheweb.com/short-stories/UBooks/SchrBaby922.shtm
<6>
「実は、私の名前はスクビンダーです。」
私はカウンターからプラスティックのインターホン受話器を拾い上げた。
それはもうチクタク言っていなかった。
私はそれを振った。
それを耳に近づけて、音を聞こうとした。
後ろを開けて電池を回してみた。
なにも変化はない。
「電池だ、電池!」と私は大声で言った。
モーがカウンターの上にある何個かの電池のパックに手を伸ばした時にそれらをこぼした。
私はそのうちの一つを掴み、その包装を引きちぎった。
古い電池を取り外し、新しいものを押し込んだ。
何も音がしなかった。
私は確認し、再確認した。
電池は正しく入れられていて、インターホン受話器のスイッチは入っていて、音量は上げてあってたが、音は無かった。
私はモーを見上げた。
彼の眉毛は逆V字を描き、手で口を覆った。
私は店の外に走り出して自分の部屋の玄関のドアを叩いた。
ハンドルを無駄にガタガタやり、それから一歩下がって、まるで(戸・壁などを)打ち壊す道具.のようにドアにぶつかった。
モーが店から出てきて、窓に向かって何度も何度も熊蜂のように突撃する私を見ていた。
ドアはびくともしなかった。
私は立ち止まった。
理性的に考えようとした。
ダメだった。
「モー、助けてくれ!」
モーは肩をすくめた。
「落ち着いて下さい。
多分、彼女はセンサーを外してしまったか、センサーが故障しているんでしょう。」
「私はこの忌々しいドアを開けるまで、生きている赤ん坊か死んでいる赤ん坊かどうかわからないだろう!」
私は窓を見上げた。
私たちの階は2階だ。
古いビクトリア風の金属の排水パイプが子供部屋の窓を超えて伸びていた。
私はそのパイプに体を固定して、よじ登ろうとした。
あの種の事は漫画の中でしか可能ではないと気が付いた。
排水管はボロボロに錆びていて、何とか手掛かりを得ようという私の努力の最中に、私はそれを壁から引き離してしまった。
悪臭を放つ淀んだ水が私の顔に降り注いだ。
私はパイプがだんだん片側の下の方に曲がりドスンと隣人のスバルインプレッサの上に落ち、助手席側の窓から飛び出した時には吐きそうになった。